0.事案の概要
この事件は、私傷病(労災ではない)で欠勤がちの有期雇用契約社員について、契約更新がされなかった(雇止めされた)事案で、裁判所はこれを有効と判断しました。
1.復職可能性の判断
ここでは、半年の契約が更新されて8年間、雇用契約が継続され、雇用契約更新の期待が認められています。したがって、雇止めが有効となるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当でなければならない、というルールが設定されました。
ハードルが上がっているのですが、それでも、会社側の対応は相当と評価されたのです。
ポイントの1つ目は、従業員の健康状態です。ここで問題にされたのは、産業医や主治医に対する相談等をしていなかった点です。一般的に、医学的な問題を専門家に慎重に確認することは、判断の内容やプロセスが適切であると認定されるために重要、と評価されます。その点から見れば、産業医や主治医の確認がない点は、会社にとって不利な事情になり得ます。
けれども、この事案では欠勤中の従業員自身に、直接、勤務可能かどうかのヒアリングを何度も行っており、その内容は(おそらく)録音の反訳文で証明されています。従業員にも十分説明の機会が与えられており、産業医や主治医の確認がなくても有効、と判断されたのです。
実務上、この会社の対応のように、従業員が提出する診断書だけでなく、直接本人に話を聞き、今後の見通しを伝えるなどしつつ、復職可能性の判断のための情報をこまめに収集し、従業員にも機会を十分与えることが重要です。
2.回避努力の判断
ポイントの2つ目は、膝が悪い、という理由での欠勤です。
復職後の仕事として、その症状から見れば、重い郵便物担当でなく、軽い郵便物担当であっても無理だ、という理由で、回避努力懈怠を否定しています。
問題は、有期雇用契約の業務の範囲内での選択可能性だけでいいのか、むしろ正社員の業務の中からも適用可能な業務を探すべきなのか、という点です。過去の裁判例を見る限り、後者の可能性も否定されません。
けれども、比較的軽微な業務すら担当不可能、と評価されている事案から見ると、座ったままの軽作業ぐらいしか考えにくく、しかも最近はそのような業務を派遣社員や業務委託先に任せる場合が多くなっている状況を考えれば、仮に正社員の業務まで対象を広げたとしても、本当に結論が異なったかどうかは、判決を読む限りハッキリと判りません。
実務上、まずは「常識的な」範囲で、代わりの仕事を社内で探す、というところが出発点でしょう。
契約書の文言だけを盾に、あまりに意地悪な対応をすれば、後者のような、代わりの仕事を広く正社員の業務にまで探さなければならない、という判断枠組みを採用される危険が上がります。けれども、一度派遣に出した業務をわざわざ取り戻すようなことまでは要求されないと思われます。この両極端ではない「常識的な」レベルでの対応が、出発点になると思われるのです。
そのうえで、実際に様々な部門に検討を依頼するなど、仕事を探すために会社側も現実に相当の努力をすることが、リスクを減らすことに繋がります。
3.補足
なお、この会社では、正社員と有期雇用契約社員の休職制度が大きく異なり、これが労契法20条に違反するか、という点も争われています。
この裁判では、長期雇用の従業員と役割が違う、などの一般的・抽象的な理由だけで、労契法20条に違反しない、と結論付けています。労契法20条に関する最高裁判例が続けて出されて、注目されている論点ですが、他の裁判例では、一般的・抽象的な判断ではなく個別的・具体的な検討を行っているものもあります。
本件では、休職が主論点ではないのでこのような判断になったのかもしれませんが、整合性について、今後議論が深まっていくことと思われます。
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