判例

労働判例の読み方「復職拒否」【帝人ファーマ事件】大阪地裁平26.7.18判決(労判1189.166)

0.事案の概要

 この事案は、医療機器の営業担当者が、双極性障害I型に罹患し、3回休職し、会社が3回目の復職を拒み、退職となった事案です。
 裁判所は、従業員による職場復帰(労働契約上の権利を有する地位にあることの確認)の請求を否定しました(棄却)。

1.裁判所の判断枠組み

 裁判所が示した基準は、復職に関する多くの裁判例と同様、従前の業務を遂行できるかどうか、という基準ですが、特に注目されるのは、非常に骨太で説得力のある構成になっている点です。
 すなわち、判決は以下のような構成で、請求棄却の理由を述べています。
 1つ目は、従前の職務の遂行可能性です。
 ここでは、実際に従前、どのような業務を行っていたのか、という観点から業務内容を具体的に分析し、①医療関係者を集めた説明会、②医療関係者への戸別訪問、③他部門との連携営業、④医療機器の設置である、としたうえで、このいずれについても、2回目の復職の際も1年かけて業務遂行できるようになっていなかったことを、その冒頭で認定しています。そのうえで、医学的にも、攻撃性が強い病気で治りにくく、この業務に適していないことや、産業医、主治医いずれも、「従前の業務の遂行可能性」について否定的である点を指摘するなどしています。
 2つ目は、業務内容を変更し、異なる業務を行わせることの可能性です。
 ここでは、実際に考えられる業務(MR、医薬支店統括、一般職)一つひとつについて、遂行可能性や現実的な配置可能性を検証し、いずれも否定しています。
 3つ目は、3回目の復職の際には、この会社での「リハビリ勤務」を命じなかった点の合理性です。
 ここでは、就業規則の定める「リハビリ勤務」の条件(監督する立場の上司の承諾)が満たされなかったこと、そのことを、会社側は実際に相当数の支店長などに監督の依頼を行いながら確認したこと、等を重視して、リハビリ勤務を経由しない復職拒否の合理性を認めました。
 このように、当該従業員が相当高額な給与とハイレベルな業務を担当していたことも影響していると思いますが、一般的な業務遂行力ではなく、その会社での、その処遇の従業員として、担当可能な業務の内容を具体的な業務内容まで分析したうえで、具体的に検討しています。抽象的・一般的な勤務可能性だけの言及で終わりがちな、特に主治医の鑑定意見書とのギャップがあり、実務上はこのギャップをどのように埋めるべきなのかを、考えなければならないことになります。

2.おわりに

 この事案で会社の主張が認められた最大の理由は、プロセスにあるように思われます。
 すなわち、会社は、過去2回も休職している従業員に対し、いずれの復職の際も、丁寧に辛抱強く復職のための機会を与え、少しずつ顧客との接触のある業務を増やすなどの対応を行っていました。
 しかも、この対応は会社側にとって非常に痛みを伴うもので、当該従業員の異常な言動や、高慢な応対に、実際の現場従業員が精神的なダメージを受けており、実際、3回目の復職先が見つからなかった理由の中で、当該従業員の異常な言動や高慢な対応によりダメージを受けた従業員が、その様子を思い出して泣き出すなどの拒絶反応があった、等の事実も認定されています。
 会社は、当該従業員のメンタルへの配慮が必要な一方で、これを受け入れた場合の他の従業員のメンタルへの配慮も必要であることが、このことからも理解できます。
 では、常にここまで我慢しなければならないのか、もう少し会社側の負担も小さい段階での決断(復職拒否)も可能なのか、という点が問題になります。
 しかし、この裁判例は、「どこまで我慢すれば大丈夫か」についての判断はしていません。ここで示されたのは、「ここまで我慢すれば大丈夫」という判断です。個別の症状や会社の状況に応じて決まることですので、なかなか一般的な回答を見つけることができません。
 少なくとも言えることは、職を失う、という従業員側の痛みが伴う処分ですので、会社側も相当の痛みを覚悟しなければならない、ということです。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
 その中から、特に気になる判例について、コメントします。

ABOUT ME
芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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