判例

労働判例の読み方「不当労働行為」【国・中労委(大乗淑徳学園(淑徳大学)事件】東京地裁平31.2.21判決(労判1205.38)

0.事案の概要

 この事案は、大学の教職員により組織された労働組合との団体交渉を拒んでいる大学Xが、労働委員会Yから出された救済命令に対し、その取り消しを求めた事案です。裁判所は、Xの請求を全て否定し、Xの行った団体交渉に関する様々な行為について、違法であると評価しました。

1.判断枠組み(ルール)

 この事案では、Xの敷地内での組合活動を認めないと通知したこと、労働組合とXの間の連絡手段を郵便に限定したこと、Xの敷地内の労働組合あてに送付された郵便物等を返送したり、労働組合委員長の自宅あてに転送したこと、労働組合からの口頭での文書返却等の依頼に対し郵送で要望するように述べて応じなかったこと、がいずれも「支配介入」に該当する、と評価されました。
 つまり、かなり詳細で具体的な嫌がらせ行為の違法性が争われたのです。
 判断枠組みとしては、「労働組合は、当然に使用者の所有し管理する施設を利用する権利を保障されているものではなく、労働組合による当該施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであるから、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで当該施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動に当たらない(最高裁昭和…54年10月30日第三小法廷判決・民集33巻6号647頁参照)」と示しています。
 そのうえで、「権利の濫用」は、「施設管理権と組合活動の調和を図る見地から、当該組合活動の内容及び必要性、当該組合活動により使用者に生ずる支障の有無及び程度、使用者の不当労働行為意思の有無等の諸点を総合考慮して判断すべきである」と、「権利の濫用」を判断する際の具体的なポイントを示しました。
 すなわち、原則ルールとして、労働組合は会社の施設を利用できないが、例外ルールとして、「権利の濫用」のような「特段の事情」がある場合には、会社の施設を利用できる、という枠組みと、例外ルールを判断する際のポイントが示されたのです。

2.あてはめ

 裁判所は、具体的に、不当労働行為該当性が問題にされたXの言動1つひとつについて、上記ポイントに該当するかどうかを、詳細に事実認定を行い、あてはめています。
 全体を通して言えることは、従前どおりX敷地内の郵便物をXにそのまま渡せば済むなど、X側の負担が極めて小さいこと、ここで問題とされたXの対応は、労使交渉の拒否や引き延ばしなど、問題の解決を先送りにするものにすぎないこと、という大学側の事情と、そのために労働組合側は手間がかかり、迅速な労使交渉ができなくなったこと、という労働組合側の事情の比較が、その中心となっているように思われます。
 別の見方をすれば、団体交渉権が確立しているかどうかを正面から争う場合であればともかく、交渉方法という本質的でない部分について、つまらない先延ばしをしている、と評価されかねない対応をしていた点が、Xに対する厳しい評価になったように思われるのです。

3.実務上のポイント

 もちろん、団体交渉事項でない、という理由で交渉自体を拒否する場合もあるでしょう。
 けれども、例えば暴力団やクレーマーが、苦情の内容について十分な合理性がない場合には、相手の対応の稚拙さや言葉尻など、本筋でないところで噛みついてきます。裁判所は、このように手続論や言葉尻にしがみつく側の議論の方が一般的に不合理である、ということを、第三者の立場から数多く見ています。
 労働組合がない会社であっても、社外のユニオン等に従業員が加盟し、労使交渉を要求されることがあります。もちろん、交渉の場や方法も重要ですが、それに関して、会社としては、問題とされた労働条件の中身に関する議論について、適切に意見交換されるための合理的な主張を行うべきです。交渉を避けたり先延ばししたりする、という発想ではなく、適切に意見交換されるための交渉の在り方、という発想に欠けていたところが、この事案では、大きな問題だったように思われます。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
その中から、特に気になる判例について、コメントします。

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芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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