0.事案の概要
この事案は、1回目の休職(H12.6.21~H15.4.8、交通事故による傷害)、2回目の休職(H17.12.1~H20.1.20、腰椎椎間板ヘルニア等)、3回目の休職(H21.8.6~H24.10.24、進行直腸がん)の後、H24.10.25から復職しました。復職後、2週間程度の勤務の後、再び出社しなくなり、有給消化後の欠勤扱い中のH25.1.21、会社はどう1.30日付の解雇を通知し、解雇予告手当30日分を支払いました。
裁判所は、従業員による職場復帰(労働契約上の権利を有する地位にあることの確認)の請求を否定しました(棄却)。
1.問題点
様々な問題点がありますが、ここでは、解雇権の濫用かどうか、という点に絞って検討します。
ここで注目したいのは、近時広く採用されるようになった、傷病休職者に対する「復職支援プログラム」との関係です。
この制度は、休職期間満了時に、産業医などの診断だけで復職可能性を無理に判断しようとしてトラブルになるのではなく、当該従業員のために復職の機会を与えるために、軽作業から徐々に慣らしていきながら、復職可能な状況かどうかを見極める制度です。
現在、この「復職支援プログラム」と同様の制度(名称は様々です)の位置付けが、法的にまちまちであり、適用されるルールも明確ではありません。
すなわち、一方では、これを休職期間中の制度と位置付け、従業員は無休でこの制度に従わなければならない(但し、多くの場合、健保から傷病手当が出されます)と、しています。他方では、これを復職後の制度と位置付け、その代わり、実際に復職ができなければ労働契約が解消される条件が付けられた雇用関係が成立する、等の法律構成にする場合があります。
ここで、会社側の対応が、当該従業員の勤務先の配属先を検討するために、実際に当該従業員に外回りの訓練をさせてみたことなどから、後者のタイプの「復職支援プログラム」と見る余地もあるように思われるのです。
2.裁判所の判断
しかし、裁判所はいわゆる「解雇権濫用の法理」と同様、諸事情を総合評価して、解雇権の濫用が無い、という判断を下しています。
すなわち、①従業員が協力しなかったために、会社が従業員の病状を知り、就業上の配慮をすることが難しかったこと、②被告三洋電機はパナソニックに買収され、人員削減を迫られるなど、当該従業員だけでなく従業員の雇用継続が難しい状況に合ったこと、③情報が限られている中でも、会社は従業員の従事できる業務を見定めようとしていたこと、等を根拠に、解雇を有効と評価したのです。
3.おわりに
復職支援プログラムを、復職後の制度と位置付ける場合には、復職可能であることが確認できない場合には解雇されることを条件にする、等の方法が取られる場合が多いようですが、この事案ではそのような条件が付されていません。
それでも、上記①~③を見れば、復職のために会社側が配慮していたことを、かなり高く評価していることがわかります。
このことから敢えて制度論として評価してみた場合、この会社のように復職支援プログラムとして枠を決めてしまうよりも、状況に応じて柔軟に対応できるメリットがあるかもしれません。
もっとも、注意すべきは、実際にこの会社が当該従業員の復職のために様々な配慮を行っている点です。
例えば「労働者性」の認定でも、契約の文言ではなく実際の勤務状況によって判断されます。実態が重視されますので、ここで仮に「復職支援プログラム」としての体裁が整っていても、実態が伴わなければ契約解消は難しくなるでしょう。
したがって、実務上は、「復職支援プログラム」の制度設計も重要ですが、実際に復職をサポートする運用が十分にできるような体制やプロセスを整えることも重要になります。
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