でも、自己破産をしたらまだ受け取っていない売掛金も没収されちゃうのかな?
お世話になってた取引先にはなるべく迷惑をかけないようにしたいんだけど…どうしたらいいでしょうか?
また、事業主が自己破産をする際は、基本的には一般のサラリーマンが自己破産をする時と同じように手続きを進めるよ。
だけど、特に個人事業主が自己破産をする際に注意しなくちゃいけない点などもあるから、しっかり覚えておこうね。
自己破産の手続きを開始した段階ですでに受け取っている売掛金は、事業者の財産の一部とみなされるため、他の財産と同様に裁判所に回収されます。
それに対して、自己破産開始時にまだ回収していない売掛金は、自己破産の担当者である破産管財人(はさんかんざいにん)が取引先から直接回収する流れになります。
この記事では、以下の3点を中心に個人事業主の自己破産について詳しく解説していきます。
- 自己破産をした際の売掛金の扱い
- 個人事業主が自己破産で受ける影響
- 自己破産後も事業を継続させる方法
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自己破産における売掛金の扱いはどうなる?
自己破産における売掛金の扱いは、売掛金の発生時期と回収時期によって異なります。
①売掛金の発生・回収が自己破産手続き開始前のケース
自己破産の手続き開始前に売掛金の回収が済んでいる場合には、売掛金は現金・銀行口座の預金と同様に扱われます。
自己破産をした際には、基本的には手元に残せる銀行口座の残高は20万円までです(東京地裁の場合)。
そのため、すでに回収が済んでいる売掛金に関しては、口座残高20万円を超える部分は破産管財人によって没収されます(現金は99万円まで残せる)。
破産管財人は破産者から直接回収を行うためすでに売掛金を受け取っている場合には、自己破産によって取引先に連絡がいくといった心配はありません。
②売掛金の発生が手続き開始前で回収が手続き開始後のケース
自己破産の手続きを開始した段階で、すでに取引は済んでいるが、売掛金は受け取ってはいないというケースでは、取引先から売掛金を回収されてしまいます。
まだ受け取っていない売掛金も、破産者の財産の一部とみなされるため、自己破産によって回収されてしまうと覚えておきましょう。
実際の回収業務は自分で行う必要はなく、破産管財人が行ってくれます。
具体的には、破産管財人から取引先に破産の通知が届き、破産者の財産にあたる売掛金を所定の口座に振り込むように請求されることになります。
そのため、回収できていない売掛金がある場合には、取引先に破産の事実を知られることは避けられないでしょう。
③売掛金の発生・回収が自己破産手続き開始後のケース
自己破産手続き開始後に売掛金が発生したというケースでは、自己破産の手続きとは関係無い財産とみなされるため、没収される心配はありません。
ただし、自己破産手続き開始時点で事業に使っていた在庫や機材などは没収されるため、このようなケースはまれといえるでしょう。
個人事業主が自己破産で受ける影響
個人事業主が自己破産によって受ける影響には、以下のようなものがあります。
- 事業で使用していた設備や在庫が処分される可能性がある
- 20万円を超える売掛金は没収される
- 新たな借入が一定期間できなくなる
- 事務所の賃貸契約などを解約しなくてはいけない
- 事業自体が処分される可能性もある
- 取引先との関係が悪化する恐れがある
- 自己破産後も従業員の給与は支払う必要がある
それぞれ確認していきましょう。
事業で使用していた設備や在庫が処分される可能性がある
事業で使用していた設備のなかには、大型機械など高価でお金に換えられるものもあるでしょう。また、商品在庫などはそのまま売却すれば返済に充てられる可能性もあります。
そのため、事業で使用していた設備や商品在庫などは、換金して債権者に分配(換価処分)できる財産とみなされ、自己破産をすると回収されてしまいます。
たとえば、以下のようなものは自己破産によって処分される可能性があります。
- コピー機などの機械
- 什器
- 2台目以降のPC
- 工具類
- 商品在庫
反対に、自己破産後も残しておける財産(自由財産)は、以下のようなものです。
- 自己破産の手続き開始後に手に入れた財産
- 99万円以下の現金
- 20万円以下の財産(口座残高や生命保険など)
- 換価処分が難しく破産管財人から放棄された財産
- その他裁判所から自由財産として認められたもの
自営業者の場合は、複数の取引先から収入を得ているケースが多いため、給与収入のみを得ている一般的なサラリーマンと比較するとお金の流れが複雑になります。
そのため、財産の処分をスムーズに進めるためには、破産管財人は少しでも早く財産を確定させる必要があります。
事業に使っている事業も財産の一部としてみなされ、換価処分の対象になるため、設備や在庫などは自己破産手続き開始時点で没収されてしまう可能性が高いでしょう。
20万円を超える売掛金は没収される
自己破産をすると、20万円を超える価値がある財産は基本的にすべて没収されてしまいます。
「①売掛金の発生・回収が自己破産手続き開始前のケース」で解説した通り、回収済の売掛金は、売掛金かどうかに関わらず、口座にある預貯金を含めて、20万円を超える部分については没収の対象になります。
ただし、個人事業主の方の中には、会社との業務委託契約によって収入を得ている方もいるはずです。
そのような方の売掛金は、実質的には賃金と同じとみなされるケースもあります。
賃金は給与債権と呼ばれ、全額ではなく4分の1のみが没収の対象となります。
そのため、まだ回収していない売掛金がある場合には、4分の3は受け取れて、自己破産後の生活の足しにできる可能性があります。
新たな借入が一定期間できなくなる
自己破産をしたという記録は、個人の信用情報を管理している信用情報機関に記録されてしまいます。
銀行や消費者金融などの金融機関は、信用情報機関の情報を元に融資の審査を行うため、自己破産をしたあと一定期間は新たな借入が難しくなります。
一般的に、自己破産の手続きが決定したあと5~7年間は自己破産をしたという履歴が信用情報機関に残ってしまいます。
自己破産後に事業を再開したい場合でも、銀行からの資金を当てにするのは難しいといえるでしょう。
事務所の賃貸契約などを解約しなくてはいけない
自己破産をする際には、一部の財産を没収されるだけでなく、契約関係も清算されることになります(破産法53条、民法631条、653条など)。
たとえば、以下のような契約は自己破産のタイミングですべて解約する必要があります。
- 事務所の賃貸契約
- 事業に使用していた機材のリース契約
- 従業員の雇用契約
- 取引先との業務委託契約
このように、事業の継続に必要な契約が解約されてしまう可能性があるため、自己破産後に事業を続けるのは難しいでしょう。
ただし、水道光熱費や携帯回線など、生活に必要な契約は残しておけるので安心してください。
事業自体が処分される可能性もある
自己破産をした段階で、事業自体に価値があるとみなされた場合には、事業そのものが換価処分の対象となります。
事業を売却することで利益を得られるのであれば、その分のお金を債権者に分配しなくてはいけません。
事業が売却(譲渡)されると、自分は事業に関する権利をすべて失うため、事業自体は残ったとしても経営に関わることはできません。
取引先との関係が悪化する恐れがある
在庫や設備を使用しない業種などでは、自己破産をしても事業が継続できるケースもあります。
とはいえ、自己破産をすると、これまで取引をしていた相手との関係に多少の悪影響があることを覚えておく必要があります。
自己破産をした時点で未回収の売掛金があった場合には、破産管財人から取引先に連絡がいくため、自己破産をしたことがバレて、信用を失うことにつながるでしょう。
また、自己破産をした時点で未払いの買掛金があった場合では、買掛金の支払いも免除されるため、取引先に損失を与える結果になってしまいます。
先述の通り、自己破産を開始すると事業に必要なものや事業そのものが処分されてしまうため、現状取引中の相手にも迷惑をかけてしまう可能性が高いといえるでしょう。
自己破産後も従業員の給与は支払う必要がある
自己破産をすると、ほぼすべての借金の返済義務が免除されますが、従業員への給与の支払いは免除されないので気をつけましょう。
従業員への給与の支払い義務は「非免責債権(ひめんせきさいけん)」と呼ばれ、自己破産をしても免除されない決まりになっています。
従業員への賃金は、労働債権と呼ばれ、法律上ほかの債権よりも優先されるため、自己破産の手続き開始後に、破産管財人が換価処分した財産から、他の債権者よりも優先して支払いがされます。
また、自己破産前に余裕があれば、弁護士と相談の上で、手続き前に給料を支払うことも可能です。
万が一、従業員への給与を支払うだけの余裕がない場合には、従業員に「未払い賃金立替制度」を利用するようにアナウンスしてください。
個人事業主が自己破産した場合家族に影響する?
個人事業主が自己破産した場合に、家族が受ける影響について確認していきましょう。
自営業で使っている自宅や車も没収される可能性がある
自営業者が自己破産をした場合には、破産者の名義になっている財産は基本的にすべて没収となります。
そのため、家族と一緒に使っている車や持ち家も、破産者の名義のものは没収されてしまうと覚えておきましょう。
家族の財産は没収されない
自己破産の際に没収対象になるのは、あくまで破産者本人名義の財産のみです。
そのため、家族の名義になっているものは没収される心配はありません。
だからといって、没収を免れるために自己破産直前に名義を家族のものに変えるのは避けましょう。
自己破産前の財産の名義変更、自己破産においては違反行為で、破産手続きが認められなくなる恐れがあるので避けてください。
家族の信用情報にも影響しない
自己破産をすると、破産者本人は信用情報に傷がついてしまいますが、生計を共にしている家族の信用情報に影響する心配はありません。
自己破産をした人と同居している家族の場合は、業者によっては審査に通りづらいという情報もネット上にはあります。
しかし、カード会社や金融機関が契約時の審査で参照するのは、契約者本人の情報のみであるため、自己破産した人と住所が同一だからといって審査に影響する可能性は低いでしょう。
定期預金や学資保険は失う可能性がある
自己破産では、本人名義や本人が受け取るお金も、20万円を超える部分が財産として没収されます。
そのため、本人が積み立てた定期預金や、子どものための学資保険も、本人の財産だと判断されて、没収される可能性があります。
家族が保証人の場合請求を受ける
保証人のついた借金がある場合、自己破産をすることで、今度は保証人が請求を受けることになります。
自己破産をしても、保証人の返済義務まではなくならないためです。
もし事業の保証人が家族であるような場合は、自己破産をすることで家族に請求が行く可能性があります。
この場合は、家族も一緒に自己破産をするか、保証人に影響しない任意整理を選んで借金を減額した方がよいでしょう。
任意整理であれば、すべての借り入れが減額の対象にならない代わりに、交渉で減額する借り入れ先を選ぶことができます。
家族の結婚や就職には影響しない
個人事業主や自営業者が自己破産をしても、家族の結婚や就職には影響しないので、安心してください。
自己破産をした事実は、信用情報や官報を確認する以外に、一般人が知る方法はなく、知られる可能性はほぼないといえるでしょう。
信用情報に関しては、本人しか開示ができませんし、官報で個人の情報を探すことは困難だからです。
自己破産後に事業を継続させるための選択肢
以下のような業種は、「事業に必要なもの」が自己破産による没収対象となりづらいため、自己破産後も事業を継続できる可能性があります。
- 自宅を事務所として使用している事業
- 従業員や外注の人員を雇っていない事業
- 在庫の商品や高価な機材を使用していない事業
しかし、これらにあてはまらないからといって、自己破産によって絶対に廃業しなくてはいけないとも限りません。
コツを知っていれば、自己破産後も事業を継続できる希望があると覚えておきましょう。
事業の継続に必要なものを自由財産と認めてもらう
自己破産をすると多くの財産が没収されますが、99万円以下の現金や生活に必要なものは自由財産として手元に残しておけます。
自己破産の手続きにおいては、「自由財産の拡張」という仕組みがあり、裁判所に申し立てれば手元に残す財産を増やすことができます。
「事業に使用するものが没収されると今後の生活再建に支障が出る」という主張が認められれば、自己破産後も事業を継続できる可能性が高まります。
自由財産の拡張を認めてもらうためには、法律に関する深い知識が必要不可欠です。
自己破産後も事業を継続するという希望を繋ぐためにも、ぜひ一度専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。
自己破産以外の債務整理を検討する
自己破産以外にも、借金を減らす手段である債務整理には以下の2つがあります。
任意整理 | 債権者と直接交渉することにより、借金にかかる利息を減額して、現実的に返済可能になるよう返済期間や月々の返済額を調整する |
個人再生 | 裁判所に申し立てて、借金を総額に応じて最大で10分の1にまで減額してもらう |
これらの手続きであれば、自己破産とは異なり財産が没収される心配はないため、借金を減らしながら事業を継続できます。
ただし、借金額や収入状況によっては自己破産以外の債務整理を選んでも状況が好転しない可能性もあります。
どの手続きを選ぶべきかは、弁護士に相談しながら決めるのがベストです。
自己破産後も個人事業主になれる?破産後の起業を成功させるコツ
自己破産をしても、起業を制限する法律はないため、自己破産後も個人事業主として事業を新たに始めることは可能です。
しかし、先述の通り自己破産後は最長で5~7年のあいだブラックリストとなり、銀行などから融資を受けられません。
自己破産後の起業を成功させるためには、以下のようなコツを抑える必要があります。
- 資金を貯めてから起業する
- 初期費用を抑えて起業する
- 共同経営者を見つける
- 再チャレンジ支援資金を利用する
資金を貯めてから起業する
自己破産後はまとまった資金を用意するために銀行などから融資を受けるのは難しいです。
そのため、一度は他の仕事について、コツコツとお金を貯めてから起業するのがおすすめです。
初期費用を抑えて起業する
初期費用を抑えて起業するのもおすすめです。
事業規模を以前より小さくしたり、初期投資を抑えられる分野で起業したりするなど、少しの工夫をすれば、これまでのノウハウを生かしながら、銀行の融資に頼らず起業できる可能性があります。
共同経営者を見つける
銀行から融資を受けられる共同経営者を見つけて起業するという手もあります。
しかし、パートナーの資本をあてに起業することになるため、お互いの待遇の違いなどによってトラブルが起こるリスクがあるので気をつけましょう。
お金の分配や業務内容などについては、あらかじめ書類でしっかりと契約しておくのがおすすめです。
再チャレンジ支援資金を利用する
再チャレンジ支援資金(再挑戦支援融資)とは、日本政策金融公庫による融資制度です。
自己破産などの経歴があり一般の銀行から融資を受けられない人でも、最大7200万円(運転資金は4800万円)の融資を受けられる制度です。
返済期間も最長7年と、事業を軌道に載せてからの返済を目指せるという非常にありがたい仕組みです。
しかし、その分審査が厳しく、事業計画や収支計画などについて、日本政策金融公庫の基準を満たす必要があります。
【参考:再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資) – 日本政策金融公庫】
まとめ
- 自己破産をすると、未回収の売掛金は破産管財人によって取引先から没収される
- 自己破産後に取引が発生した売掛金は没収される心配はない
- 個人事業主が自己破産をすると、事業に使用していた設備や在庫が没収されるため事業継続は難しい
- 事業を継続しながら借金を減らすには、自己破産で自由財産の拡張を認めてもらうか、自己破産以外の債務整理を選択しよう
もしかしたら自己破産以外にも自分にとってベストな解決策があるかもしれないし、一度弁護士に相談してみます!
企業法務をはじめ、債務整理関連の案件、離婚・男女トラブルの案件、芸能関係の案件などを多数手がける。