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ITベンチャーは海外特許の取得についてどのように考えるべきか?

ITベンチャーがスタートアップ時に考えるべき課題として、国内・海外の特許の取得が挙げられます。グローバルなソフトウェアサービスが求められる時代、どのような費用感と時間軸で特許取得について考えるべきでしょうか。

今回の記事では海外特許の取得について、メリット・デメリットや出願件数、その費用についてもご説明いたします。

1 そもそも特許は取るべきか?

これからIT分野で起業をするとなれば、多くの場合はこれまでにないアイデア・独創性を持っているかと考えられます。

独創性を持っているビジネスであれば、特許を取ることでさまざまなメリットを得ることができます。しかしその分費用もかかるので、そもそも特許申請を行なうかどうかについての判断を迫られます。

そもそも特許権とは、「発明を保護するための権利」と定義づけられています。高度な技術的工夫を発明として、発明者の独占を認めることで、その発明を保護・症例し、かつ産業的な発達につなげることを目的として作られた制度です。

メリットしては以下が挙げられます。

・アイデア、独自技術を独占的に使うことができる

・ビジネスによる事業の差別化を図ることができる

・模倣サービスを防ぐことができる

・ライセンスや協業などによる他社との連携を取ることができる

・マーケティングやブランディングに繋がる可能性がある

デメリットとしては以下のようなことが考えられます。

・特許の取得内容が公開され、ノウハウが知れ渡ることになる

・国ごとに特許出願が必要なため、海外企業に模倣される可能性がある

・特許取得に工数と時間がかかる

・特許取得に金銭的な負担がかかる(国内特許で100万円程と言われています)

自分たちの独創性のあるアイデアに特許申請が必要なのかどうかは、特許を取得することによって得られる将来的市場価値と特許申請にかかる費用・工数を比較した上で特許取得の場合の方が価値が高いかどうかで判断することができます。

特にITサービスにおいては特許取得要件の確認や海外特許の検討なども必要になるので、費用対効果はよく確認しておくことが重要になってきます。

2 ITサービスの特許要件とは?

ITサービスで特許を取得する場合は「ビジネスモデル特許(ビジネスモデルに関連する発明特許)」となります。ビジネスモデル特許の前提にはコンピューターソフトウェアの発達があります。

もともとプログラム自体は特許として認められていませんでしたが、プログラム及びコンピューターソフトウェアが産業へ大きく寄与していることからきちんと認められるようになったという経緯があります。そのため通称ではビジネスモデル特許と呼ばれていますが、実際には日本の特許庁では「ソフトウェア関連発明」の一分類と位置付けられている、ITサービスのための特許になります。

特許庁「『特許・実用新案審査基準』の特定技術分野への適用例」には、ビジネスモデル特許の審査基準として以下のように記載されています。

「ビジネス方法に関連するソフトウエア関連発明は、ビジネス方法に特徴があるか否かという観点ではなく、当該発明が利用するソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されているかによって、『自然法則を利用した技術的思想の創作』に該当するか否かが判断される。」

つまりビジネスモデル特許を取得にあたって重視されるのは「ビジネスモデルかソフトウェアどちらかに特異性があるか」ではなく「特許を申請した発明によるサービス(ソフトウェア)がハードウェア資源を利用して実現しているか」となっています。

具体的なビジネスモデル特許の有効活用例として代表的なものがAmazonが1997年の時点で特許出願したワンクリック特許です。出願から14年を経て日本でも特許として認められたこのワンクリック特許は、早い段階で特許を取得したことにより競合サイトに対して強力な競争性を持ちました。ワンクリックで購入に進めるという効率的な注文方法はAmazonでしか利用することができず、顧客利便性においてAmazon以外でのECサイトとの大きな差別化を図る結果を引き起こしたと言えます。

ビジネスモデルだけ、ソフトウェアだけでは取れないビジネスモデル特許ですが、特許権を取得するに値する独創性を持った発明の場合、将来的に競合他社との差別化や市場の独占につながる可能性があります。ただし、国を超えてグローバルにサービスを広げたい場合、進出する国ごとに特許を取得しなくてはいけない点に注意が必要です。

3 海外特許の取得のメリット、デメリット

スタートアップ企業が独創性を持ったアイデアに基づくITサービスをグローバルに広げたい場合、先述のAmazonのように海外特許の取得が有効になる場合があります。その分国内特許よりも工数や費用が増えますのでそのポイントを整理します。

まず第一に、世界のほぼ全ての国では知的財産権は各国領域内に属される、という属地主義の考え方を取っています。つまり、どういったアイデアを特許として成立させ、どの国内でのどのような行為を特許権を侵害したとするか、ということはその国々の法律によって異なっているということです。そのため、あらかじめ海外進出を視野に入れたITサービスを提供する場合、日本国内だけではなく進出したい国への特許出願もあわせて検討する必要があります。

日本国内で特許として認められたサービスだとしても、そのままでは海外での製造・販売に対しての効力は認められません。また海外での特許出願を行なったとしても、日本と同じ内容で出願しても属地主義の考えに基づき、その国では認められないということも起こり得ます。【全世界に効力を持つ国際特許はない】ということを念頭に置いて、海外特許取得を検討する必要があります。

もし海外特許を取得しなかった場合、以下のような事例が起きることがあります。

「独創性のある新サービスを開発し、日本で特許を取得した。ローンチ後に好評で海外ユーザーからの要望もあったため、A国にサービスを展開しユーザーを拡大していったところ、ある時期から他社の模倣サービスがより安価で提供されるようになっていたことが判明した。日本で取得した特許権に基づいて模倣サービスによる権利侵害を裁判所に訴えようとしたものの、A国の特許としては認められていないため出来なかった。」

需要、独自性のあるITサービスを競合他社に惑わされずに海外へ進出するためには、外国での特許出願検討をおすすめします。

では外国での特許出願におけるデメリットとは何でしょうか。特許自体の一般的なメリット、デメリットに加え、海外特許で最も大きいのがコストへの懸念です。

4 海外特許取得にかかるコスト

各国の特許法には「特許出願の申請書類はその国の公用語で書かれていなければならない」という規定が定められています。そのため、中国へ特許出願をするのであれば中国語、アメリカへ特許出願をするのであれば英語と、各国の公用語への翻訳スキルが必要となってきます。

また日本も含め、知的財産権の取り扱いにはその業務における資格を有している者の専権業務とされています。中国であれば専利代理人、アメリカであればPatent attorneyというような専門資格が用意されています。そのため外国特許庁への手続きは全てこの現地の有資格者を代理人として立てることが必要となってきます。この手続きというのは新規申請に限った話ではなく、特許が通らなかった場合の拒絶理由通知への応答書面の提出などの全てのやりとりを指しています。

各国の現地特許庁の手数料や代理人を立てる費用は国によって異なりますが、米国やヨーロッパなどは他の国に比べて高額になる傾向がありますので注意が必要です。

海外特許取得にかかるコストは主に以下の3点となります。

・各国への特許出願書類の翻訳コスト

・各国特許庁の手数料

・各国知的財産権取り扱いに関する有資格者への代理人費用

特許庁への手数料以外は国内での特許出願にプラスしてかかる点にご留意ください。

5 日本企業の海外特許の出願件数は?

国際統計・国別統計専門サイトによると、日本企業は統計の始まった1990年から国際特許出願数において世界的に毎年4位以内のトップクラスに位置し、最新データ(2018年)では米国、中国に次ぐ49,706件の国際特許を出願しています。

https://www.globalnote.jp/post-5380.html

欧州特許庁(EPO)が2019年3月12日にまとめた報告書によると、このうち日本企業が欧州で取得した特許権数は2万1,343件にのぼり、過去最多となっています。

他の国よりもより高い費用がかかる欧州での海外特許の出願件数が多いということは、それだけ海外進出における海外特許の必要性を感じている企業が多いということになります。

海外特許のメリット、デメリットを抑えた上で取得を検討してみてはいかがでしょうか。

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