会社同士の付き合いや、就活、会議などで「執行役員」というワードは、よく登場するキーワードの一つです。
特に、新卒や転職などの面接では、3次面接、最終面接などへ選考が最終段階に近くなった場面で登場するイメージの強い人物であり、名刺を見ると「取締役執行役員」などと書かれてあるケースがあります。
ところで、この「執行役員」という人物ですが、会社内において「どのような立場であるのか?」、「どのような業務を行っている人物なのか?」、「取締役や専務、常務などとどのように異なるのか?」などを正確に把握しているビジネスパーソンは多くないのではないでしょうか?
今回、この記事では、よく耳にする「執行役員」が企業内でどのようなポジションであるのか、他の役職とどのように異なるのか、どのようなメリット・デメリットが存在するのかをわかりやすく解説していきます。
目次
① 執行役員とは?
はじめに、執行役員の定義や目的、役割などついて説明していきます。
「執行役員」というワードだけ聞くと、経営幹部や会社の上層部のようなイメージが湧くかもしれませんが、法的な側面に焦点を当てるとその意外な実態が見えてきます。
執行役員の会社法上の定義
まず、執行役員という役職は会社法上の定義には存在しません。
執行役員とはいわば、
「幹部役員からの依頼を受けて、事業部門のトップとして事実上の事業運営を担うポジション」
であり、個別の会社が任意で定めているポジションとなります。
ここでのポイントは、「個別の会社が任意で定めている」という点と、「会社法で定義されているわけではない」という点です。
執行役員はあくまで会社が任意で定めた事業運営におけるトップであり、会社法上、重大な責任を持ち権限を行使できる重要な立場ではないため、従業員という位置付けになるのです。
逆に、「取締役」や「役員」は、会社法で重要な役職として定義されており、経営方針や代表取締役の選任に関する重大な権限を行使できる役職としてみなされています。
なお、取締役については以下の記事で詳しく解説が行われているので、詳しい情報を知りたい方は是非ご覧ください。

このことから、「執行役員」と「取締役執行役員」と書かれた2つの名刺がある場合、会社法上は大きな差があることがわかります。
「執行役員」は従業員であるのに対し、「取締役執行役員」は会社役員であるという違いがあります。
執行役員制度の位置付けと目的
執行役員制度は、執行役員というポジションに事業部のトップとなる従業員を就かせる制度です。
前述した通り、法律上定義されている役職ではなく、会社が任意で採用する制度であるため、役割や人数などに制限などの規定はありません。
このことから、一般的には、事業部門のトップである、いわゆる「部長クラス」が就任するケースが多いとされています。
つまり、執行役員は、経営層が決定した経営方針に従い事業を運営する事業部レベルの責任者に該当するポジションです。
また、執行役員制度導入の最大の目的は、分業による経営の効率化であるとされています。役員が会社の決定事項に集中できる仕組みを構築することで、会社経営に関わる重要事項などをよりスピーディーに決議し実行できるようにすることが執行役員制度の本来の目的です。
このように取締役をはじめとした役員が経営業務に集中し、実務に関する業務は執行役員が責任者として担当することで「経営に専念する役員」と「実務に専念する執行役員」を明確に区分することがこの制度の主な狙いとなります。
執行役員の役割
これまで説明してきた通り「執行役員」は、会社の重要事項に関して決定する権限を持つ役職ではなく、あくまでオペレーション(事業部レベル)のトップとして事業を引っ張る従業員です。
一方、事業部レベルでみた場合、執行役員は非常に重要なポジションであることは明白であり、事業運営に関しては管理職として責任を持ち、他のメンバーを引っ張るためのリーダーシップが不可欠な存在であるといえます。
そのため、企業によっては、法的に経営役員としての権限を持つ取締役が事業部のトップとして執行役員を兼任するケースがよく見かけられます。
このようなことから「取締役執行役員」のようなポジションが出てくるのです。
ただし、この際注意しなければいけない点は、「取締役執行役員」は、「取締役」が「執行役員」のポジションを兼任しているという意味合いであり、会社経営に対して重大な権限を行使できる「取締役」と、事業部のトップである「執行役員」は根本的に異なる位置付けであるといえます。
なぜ執行役員制度が導入されたのか?
日本で最初に執行役員制度を採用したのはソニーであるとされていますが、制度が導入されたきっかけは会社役員による数々の不正問題であったといわれています。
1990年代のバブル崩壊後、景気が悪化し企業同士の競争が激化し、その結果、経営に関するチェックが甘くなる企業が増えた影響で、会社役員による不正が次々に発生してしまいました。
このような流れの中、従業員からは経営層に対して不満の声があがり、事業部門そのものに対する責任に関しては、役員ではなく従業員側が持つべきであるという意見が高まり「執行役員制」が導入されることとなりました。
② 執行役員と取締役・執行役の違い

執行役員vs取締役
執行役員と取締役の位置付けが根本的に異なり、執行役員はあくまで事業部のトップであるという点については前述しました。
この執行役員と取締役の違いについて従業員と会社役員という観点に立って解説していきます。
まず、「執行役員」は従業員です。
従業員は、会社と労働基準法によって雇用契約を結び、給料という形で会社から報酬を受け取ります。また、労働基準法に則った契約がなされているため、会社側が一般的に簡単に解雇することは難しいとされています。
一方で、「取締役」は会社法で役員等と定義されています。
取締役は、雇用契約ではなく株主によって選任され、委任契約を会社側と締結し、代表取締役の選任や経営に関する重要事項への権限を持つポジションです。
また、取締役は、社内における最高ポジションの一つである一方、株主により選任され、会社側と締結している委任契約はいつでも解任される可能性がある側面を持つ契約であるといえます。
執行役員vs執行役
あまり頻繁には見かけない肩書きかもしれませんが、企業によっては「執行役」というポジションを採用している会社もあります。
この「執行役」というポジションは、委員会設置会社という会社では設置が義務付けられている役職です。
委員会設置会社の特徴は、業務執行機能を担う組織と、経営の監視を行う監査機能を担う組織を社内で明確に区分している点であり、経営の透明性を高めることができる一方、設立の難易度が非常に高い会社組織であるとされています。
「執行役」は、委員会設置会社の取締役会で選任されるポジションであり、執行役が複数存在する企業では、そのうちの一人を「代表執行役」として設置しなければなりません。
執行役は、取締役と同様、会社と委任契約を締結し業務を遂行する責任の重いポジションですが、会社役員によって決定された経営方針に従って業務を執行するという役割そのものは執行役員と同一とされます。
③ 執行役員の報酬、任期、定年

執行役員の報酬
執行役員には、「役員」というワードが入りますが、実際には経営に関して権限を持つ役員ではなく、あくまで事業部レベルのトップである従業員です。
そのため、「役員報酬」という形での報酬は発生しません。
「役員報酬」とは、株主総会、取締役会や、委員会設置会社で業績の評価をもとに議論し、決定される報酬を示します。
一方で、執行役員は雇用契約を会社と締結した従業員です。
そのため、役員報酬ではなく、一般的な従業員と同様に、給料やボーナスといった報酬が与えられます。
執行役員の任期
執行役員の任期は1年間とされることが多いようです。
執行役員は、取締役会や経営会議で選定される役職ではありますが、会社と締結している契約はあくまで雇用契約です。
そのため、執行役員を解任されたとしても、従業員の一人として会社に残り続けることが可能なポジションとされています。
執行役員の定年
執行役員の業務は、業務部門のトップとして、会社を運営するために重要な業務です。
しかしながら、契約上は役員ではなく、あくまで従業員であるため、原則的には定年制が適用されます。
その一方、基本的に、定年退職の制度を設けている企業は、就業規則によって定年年齢や退職時期が定められており、就業規則は会社によって個別に定めることができる制度です。
このことから、就業規則による定めによって、執行役員については、執行役員でない従業員よりも定年時期を延長するといった取り決めをすることも可能となります。
④ 執行役員制度のメリット・デメリット

執行役員制度のメリット
以下が、執行役員制度を導入する場合の主要なメリットです。
執行役員制度は、経営と実務を明確に区分することで、役員は経営へ集中し、従業員は実務へ集中できる仕組み作りを目的とした制度であるため、執行役員制度を導入した場合のメリットも、この目的に基づいたメリットが多くあります。
- 経営幹部の役割が明確化される。
執行役員制度導入1つ目のメリットは、取締役をはじめとした経営層の役割が明確化される点です。
経営層の役割は、経営に関する意思決定を行うことですが、役員が実務に追われてしてしまう意思決定が遅くなったり、その精度が下がったりしてしまいます。
実務と経営を明確に分けることで、このような事態を避けることに繋がるのです。 - 現場の業務効率が改善される。
執行役員は、役員ではありませんが、実務レベルのトップであることは明白な事実です。
このように「執行役員」のポジションを与え、現場のトップを明確化することでよりスムーズに業務を遂行することが可能になります。 - 若手有望株の試金石となりうる。
会社に優秀な若手がいる場合、特に経営層はできるだけ早く取締役などの役員に就任してもらうことでその手腕を奮ってもらいたいと考えるかもしれません。
その一方、いきなり現場から役員に昇格させることは、会社にとっても個人にとっても負担が大きいと考えられます。
そのような場合、一旦「執行役員」のポジションを与えることで、現場のトップとしてマネジメントなどの素養を身に付け、将来的な昇進に備えるという方法をとることができます。
執行役員制度のデメリット
経営や業務の明確化や効率化に効果が期待できる執行役員制度ですが、メリットばかりでなく一定のデメリットも存在するのが実情です。
以下は、執行役員制度を導入した際の主なデメリットとなります。
- 法的な立場がはっきりしていない。
執行役員は、法律上、従業員であり会社役員ではありません。
しかし、実際は、取締役が兼任したり、業務内容によってはみなし役員とされるケースもあります。
また、多くの部下やクライアントで執行役員と役員が全く異なることを理解している人は決して多いとはいえないのではないでしょうか?
このように、執行役員は、立場上、宙に浮きやすいポジションであるといえる側面があります。 - 業務効率化を妨げる可能性がある。
執行役員制度の一番の目的は、経営業務には経営層の役職が集中し、実務レベルの業務は執行役員がトップとして遂行できる仕組みとして機能することです。
一方で、経営と実務が分離されることに関しては、事業に関する意思決定や情報連携が複雑化し、コミュニケーションの手間が増加するリスクが発生します。
また、経営層と執行役員が常に連携を取りながら業務を進める必要があるため、コミュニケーションの齟齬などによって、逆に業務が非効率化する可能性があるといえます。
⑤ まとめ

執行役員に関する説明は以上ですが、立場上、経営層よりも一般の従業員に近いという側面に驚いた方も大きかもしれません。
一方で、執行役員は、現場や実務のトップとして経営層に任命されたポジションであり、大きな責任を負う存在であることに変わりありません。
また、執行役員の制度そのものもメリットがある一方、一定のデメリットも存在する制度です。
会社のフェーズによっては、執行役員制度を採用した場合がよいケースもあれば、経営と実務が一体となっていた場合が望ましいケースもあるため、フェーズや状況に応じて的確な判断が求められます。
会社経営を行う場合は、各ポジションの実務や法的な立場を正確に理解し、それに応じた経営戦略を練ることが不可欠であるといえます。
スタートアップドライブでは、下記のように会社経営に役立つ記事を多数執筆しています。
ご興味のある方や、会社経営に携わっている方は、是非ご覧ください。


