企業間の合併という言葉は、ニュースでもよく耳にしますよね。
合併はM&Aの1種であり、経営者であれば必須の知識ですが、具体的にどのような手続きなのかご存じですか?
何となくのイメージは抱いていても、合併のもつメリットや実施スケジュールについては知らない方も多いと思います。
今回は、合併のメリットやそのスケジュールについて詳しく解説していきます。
この記事を読めば、合併に関する基礎的な知識が身につきますよ!
目次
1.合併とは

合併とは、2つ以上の会社が合一して1つの会社になることであり、会社法上では組織再編行為の一種として規定されています(合併契約について、会社法748条、749条、753条)。
M&Aの際の株式や資産の移転には、その行為に対して税金が課されます。
企業は、時代に応じて組織体制を変更する事を求められますが、毎度少なくない税金を納めることになっては柔軟に体制変更をすることが難しくなってしまいます。
そこで合併の場合には、条件を満たした場合に、税金の優遇や手続きの簡略化が認められています。
以下に説明するように、合併には「吸収合併」と「新設合併」の2種類があります。
(1)吸収合併
まず1つ目が吸収合併(会社法2条27号)です。
吸収合併とは、当事会社のうち1社が合併後も存続し(これを「存続会社」といいます)、合併により消滅する他の当事会社(これを「消滅会社」といいます)から権利義務一切を承継することをいいます。
例えば、A社がB社を取り込み、A社になる形の合併です。
消滅会社がもつ資産や権利、従業員などは、包括的に存続会社が承継するのが吸収合併の特徴です。
大企業が中小企業を取り込んだり、親会社が子会社を取り込んだりするケースが多いです。
存続会社は、その名の通り合併後も会社として存続するので、上場や許認可等を維持する事ができます。
(2)新設合併
2つ目が新設合併(同条28号)です。
新設合併とは、すべての当事会社が合併により消滅し、その権利義務一切を、新たに設立する会社(設立会社)が承継するものです。
例えば、A社とB社が合併し、両社が消滅するとともに、設立したC社が両社の権利義務の一切を承継する場合です。
あくまで新会社を設立することになるため、設立会社が新たに許認可を取得する必要があったり、上場手続が必要になるなどの不便があるため、実務上は吸収合併が行われるパターンが多いようです。
しかし、複数の子会社をまとめる場合など、事業における機能が散らばっている会社同士を新会社として1つに統合することで、事業の効率化を図る場合に行われることがあります。
2.合併と買収の違いとは?

合併とよく比較されるM&A手続きとして、買収があります。
両者は混合されがちですが、合併と買収には明確な違いがありますので詳しくみていきましょう。
実は買収とは、会社法上に定義や手続きの定められていない、経済用語ないし日常用語にすぎません。
一般に、買収とは、会社が他の会社の発行済株式を、過半数以上買い取る行為の事を指します。
過半数の株式を所有していると、実質的な経営権を持つことになり、子会社化・グループ化とも言われ、経営方針が統合されます。
しかし、買収後も売り手・買い手企業共に会社としては存続しており、原則、権利義務や従業員が承継されることはありません。
実際には支配する事だけが目的ではなく、買収後も売り手企業の経営陣が変わらないケースもあります。
一方で、合併とは会社法で具体的な手続きが定められている、組織再編行為です。
子会社化やグループ化と違い、経営方針でなく会社そのものが統合される点に大きな違いがあります。
先ほど述べたように、複数の会社が、代表的となる会社に合流するか、新たに会社を作り合流するかし、従来の権利義務関係(従業員も含む)は合流先に承継されます。
買収は企業の事業を目的とした契約なのに対し、合併は企業全体を目的とした契約であると理解しておきましょう。
3.合併のメリットとデメリット

合併の概要については以上述べてきた通りです。
次は、合併には具体的にどのようなメリットがあるのか、また、どのようなデメリットがあるのかについて確認していきましょう。
(1)メリット
まずはメリットから紹介します。
合併によって得られるメリットには複数のものがありますが、ここでは代表的な3つのメリットについて説明していきます。
#1:スケールメリット
まず挙げられるのが、合併によって企業規模が拡大することによって得られるスケールメリットです。
組織としての一体感得られる、といった従業員の心理的側面のほか、様々なスケールメリットが得られます。
例えば、予算の拡大によって取引量が増え、仕入先や取引先に対して交渉力が向上します。
また、合併を行うことで、存続会社は合併する余裕があるという経営状態の良さをアピールでき、対外的な信用力が向上します。
一般的には財務状況が良く成長性のある企業同士が合併する事例が多いので、さらに財務状況が良くなり信用力の強化につながります。
そうすると、金融機関からの借入や投資家からの出資を受けやすくなるなど、さらなる事業拡大も見込めるようになります。
#2:経営の一体化によるメリット
合併によって複数の会社が合一することにより、資金や人材の移動がスムーズになります。
ドラゴンクエストシリーズで知られるエニックスと、ファイナルファンタジーシリーズで知られるスクウェアが合併したことにより、それぞれの強みを生かし、その後も世に名だたるヒット商品を開発してきたことは周知の通りです。
会社ごとの得意分野を寄せ集める事ができるので、さらなる事業拡大や新規顧客獲得の幅を広げる意味でもメリットがあると言えます。
また、対外的にも、顧客管理や取引先などへのアプローチも一体での管理となるので、コスト削減が可能になります。
#3:税務メリット
消滅会社に繰越欠損金がある場合、合併によって存続会社がその繰越欠損金を利用できる場合があります。
その合併があくまでも純粋な組織再編目的である場合、一定の要件を満たすことで適格合併と呼ばれる制度を適用させることができます。
適格合併の場合、繰越欠損金を一定の条件をもとに利用できることになっており、存続会社に税務メリットが生じます。
消滅会社の繰越欠損金のうち一定額を将来、存続会社が稼ぎ出す利益と相殺することができ、存続会社の将来の税金負担が少なくなるのです。
(2)デメリット
残念ながら、合併によって生じてしまうデメリットもあります。
実際のところ、どのようなデメリットが生じるかは当事会社によって様々です。
以下からは、合併のデメリットとして知られるものを2つ紹介します。
#1:経営の一体化によるデメリット
メリットとして経営の一体化を挙げましたが、一方でデメリットとして効果を発する場合もあります。
例えば、吸収合併の場合、消滅する側の会社名は消えてしまうため、もし顧客等がその
消滅会社のブランド価値に信用を寄せていた場合、合併によって全体的な信用力を失ってしまう恐れがあります。
両社の社名を使った新たな社名を用いる事などでデメリットの回避が可能ですが、合併を繰り返すことにより社名が複雑になり、認知力が落ちるという場合も考えられます。
また、組織が大きくなると、部門同士や経営者と労働者の間での意思の疎通が難しくなります。
特に、当事会社がそれぞれ伝統のある会社だった場合、旧会社同士の派閥争いが生じてしまう可能性があります。
その場合、責任の押し付け合いが起きる等のトラブルが起こる可能性があるので注意が必要です。
#2:コスト
合併時には、税負担のほか、合併手続自体においてコストがかかります。
例えば、資本金の増加に対して登録免許税がかかりますし、合併の手続きは複雑なので、多くの場合で専門家に依頼する事になります。
専門家だけでなく社内でも通常業務の他に合併業務が必要になるので、そういった意味でも人件費等のコストがかかってしまいます。
コストの概算と、合併のメリットを予め比較しておく必要があります。
4.合併のスケジュール

ここからは合併のスケジュールを解説していきます。
以下に詳しく説明している通り、合併は様々な手続を正確に履行する必要があり、期間もそれなりに必要となります。
例えば吸収合併の場合、企業規模にもよりますが、最短でも2ヶ月程度の期間がかかるとみておきましょう。
(1)合併契約書の作成
まずは合併契約書と合併合意書を作成します。
合併契約で定める事項は、会社の屋号や財産の譲り受けに関する事項など多岐に亘りますが、基本的な事項はすべて会社法に規定されています。
合併合意書には、基本事項や契約書に記載されない重要事項を記載します。
こうした契約書や合意書が合併に関するすべてのベースとなるといっても過言ではないため、契約書の作成にあたっては、M&A業務に精通した弁護士へ依頼することをおすすめします。
M&Aに強い弁護士の探し方については、以下の記事で紹介しています!
M&Aでの弁護士の役割は?依頼するメリットと選び方を徹底解説!
(2)取締役会決議
次に、会社内部での意思決定として、合併につき取締役会で合意を得ます。
取締役会を設置していない会社は、取締役のうち過半数の合意が必要です。
(3)合併契約締結
書類の精査をして、取締役会での合意を得た後は、契約の締結になります。
最低でも以下の3つはこの時点で確定する事になります。
- 存続会社・消滅会社の称号・住所
- 合併の対価と割当てに関する事項
- 合併の効力発生日
(4)株式買い取り請求通知・公告
合併の際(特に吸収合併の場合)、株主に不足の損害を与えてしまう恐れがあります。
そのため反対株主は投下資本を回収する目的で、株式の買い取り請求が可能です。
下記の3つに該当する株主には、通知・公告を、約定の効力が発生する日の20日前までにする必要があります。
- 事前に反対する旨を通知し、株主総会において合併に反対した株主
- 株主総会で議決権を行使できない株主
- 株主総会での決議を要しない場合には、すべての株主
新株予約権を発行している場合には、それらの買い取り請求手続きも必要です。
(5)債権者向けの手続
合併の際は、官報公告及び債権者への個別の通知が必要です。
債権者異議の期間は1ヶ月以上の期間を設けます。
官報公告かつ定款で決められた公告方法から公告を行った場合、通知は不要です。
しかし、定款で定めた公告方法が官報による公告の場合は通知を省略することはできません。
債権者が異議を述べた場合には、弁済や相当の担保の提供、信託のいずれかを行う必要があります。
ただし、当該債権者を害するおそれがない場合、手続きは不要です。
(6)契約書の備置
吸収合併契約書などの備置の開始日から、合併効力発生後6ヶ月経過するまで、合併契約書などを本店所在地に備え置く必要があります。
ここで言う、備置開始日は次の4つのうち最も早い日を指します。
- 株主総会2週間前
- 株主への株式買取請求の通知もしくは公告のいずれかの早い日
- 債権者保護の手続に関する催告もしくは公告のいずれかの早い日
- 新株予約権者に対する買取請求の通知もしくは公告のいずれかの早い日
(7)株主総会承認
合併の効力が発生する前日までに、合併について株主総会の承認を得る必要があります。
合併は株主に大きな影響を及ぼすことから、原則として、各当事会社の株主総会の特別決議によって承認されなければなりません。
招集通知は原則として株式公開会社は株主総会開催の2週間前までに、非公開会社は1週間前までに行います。
会社法上、会社の所有者は株主にほかならず、株主を保護するための規定がいくつも定められています。
合併における株主総会承認もその一つであり、この手続きを適法に履行しなければ、後々合併自体無効になりかねない大きなトラブルが発生するおそれがあります。
したがって、株主総会承認を得るための法定要件については、弁護士とも相談のうえ、確実に充足するように気をつけましょう。
株主総会の特別決議については、以下の記事で詳しく説明しています。
(8)効力の発生と登記申請
合併契約で定めた日から効力が発生します。
効力の発生から2週間以内に、存続会社の変更登記と消滅会社の解散登記を行う必要があります。
5.合併したら会社財産や株はどうなる?

ここまでは、合併の意義や具体的なスケジュール等について確認してきました。
合併に至るまでのイメージは何となく掴めていただけたと思うのですが、合併の手続きが滞りなく進み、無事に効力を発生した場合、会社財産や株はどのような扱いとなるのでしょうか。
以下からは、特に疑問をもたれやすい株式と会社財産の扱いについて紹介します。
(1)株式
吸収合併・新設合併いずれにしても、消滅会社の株式は失効しますが、株主に対しては新しく合併会社の株式が割り当てられます。
ただし、被合併会社の株式と合併会社の株式は均等に交換されるわけではありません。
定めた合併比率に従い、どれだけの数の株式を被合併会社の株主に交付するのかを決めるのです。
この合併比率とは、被合併会社の1株に対し、合併会社、新設会社の株式をどれだけ交付するかという割合のことを指し、それぞれの株の評価額によって決まります。
消滅会社の株主は、所有していた相当額の新しい株を交付されます。
(2)会社間での引き継ぎ
一定の要件をクリアする合併(適格合併)により資産の移転が行われた場合、合併会社は被合併会社の合併直前の帳簿価額によりその資産を引き継ぎます。
一方、非適格合併の場合は、被合併会社が合併時の時価により譲渡したものとして被合併会社の最後事業年度(合併の日の前日の属する事業年度)において譲渡損益を認識し、合併会社は時価で受け入れることになります。
6.まとめ
合併のメリットとスケジュールについて解説は以上となります。
M&Aの手続として買収と比較されがちな合併ですが、合併ならではのメリットが多くあります。
経営方針が統一でき、資金繰りも円滑になるのでスケールメリットをしっかり生かすことができます。
企業をより発展させるためや、市場が苦しい時に生き残るためなど様々な思惑により合併が行われますし、買収後に合併に発展する可能性もあります。
合併は大企業同士のみならず、大企業が中小企業を取り込む形や、ベンチャー同士が合併によるシナジー効果によって強みを生み出そうとする場合など、様々なパターンで実施されています。
合併がもたらす効果等については、当事会社の特徴によっても異なるため、気になる方はまず専門家に相談するようにしましょう。
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