一般法務/契約書

自らITベンチャーを起業し より一層サービスに磨きがかかった 日本初のベンチャー支援専門法律事務所〈前編〉

GVA法律事務所(東京都渋谷区)は、起業家支援、スタートアップ支援を日本で他社に先駆けて手掛けた法律事務所として、界隈では広く知られている。

豊富な知見と蓄積されたノウハウ、起業家・経営者に親身に寄り添う丁寧なサービスで厚い信頼を寄せられてきたGVA法律事務所だが、2017年にはAIを活用した契約書チェックサービス「AI-CON(アイコン)」を開発・提供するITベンチャー、GVA TECH株式会社を設立。

実際に企業経営を行なうことにより、起業家・経営者の実際と心情をさらに深く理解する事務所へと進化した。

両社の代表を務める山本俊弁護士に、現在の想いについて話を伺った。

1.当時、話が分かる弁護士はいなかった

ーベンチャー企業、スタートアップ企業を支援する弁護士の先駆けとして知られる山本先生ですが、弁護士としてのキャリアは税務訴訟をメインに手掛ける法律事務所から始まっていますね。

学生時代に取っていた講義の講師が元市長の方で、地方税制の授業だったんです。

そのころすでに弁護士になろうと決めていたのですが、その先生から「アメリカにはタックスロイヤーといって、税務訴訟を手掛ける弁護士がいる。日本にはまだいないから勉強してみたら?」と言われて興味を持ったんですね。

ロースクールに進んでからも、税法の授業を取って知識を蓄えて、弁護士資格を無事取れてからも、税務訴訟といえば鳥飼総合法律事務所ですから、絶対に入りたいと思って入れていただいたんです。

ー弁護士登録されたのは2010年ですね。このころは税務訴訟の数は下火になっていた時期ですね。

そうなんです。さらに、翌2011年には東日本大震災も起こってしまい、街の雰囲気も全体的に暗くなっていた時期でした。

当時は、いわゆる企業法務をやらせていただいていました。

ー鳥飼総合法律事務所には2年いらっしゃって、2012年に独立してGVA法律事務所を立ち上げています。なにかきっかけはあったのですか?

事務所の案件と並行して個人で引き受けていたお仕事も手掛けていたのですが、この個人の案件が増えてきたことがきっかけでした。

ー個人の案件はいわゆるスタートアップですか?

当時はまだ、スタートアップという言葉もありませんでした。IT企業とITベンチャーの区別もあいまいで、システム開発を行っている企業もITベンチャーというくくりで呼ばれていて、あまり区別がなかった時代でしたね。

現在は、VC(ベンチャーキャピタル)から投資を受けて、革新的なビジネスを手掛ける企業をスタートアップと呼んでいると思うのですが、当時はそういう違いもありませんでした。

そんななかで、ITを使ってなにかビジネスを行っている企業の相談が一気に増えたんです。やがて事務所の案件と両立するのは難しくなって、独立しようと決めました。

ー当時のスタートアップ界隈における弁護士の立ち位置はどのような感じだったのですか?

当時、いろいろな場所に顔を出そうと、目についたイベントや集まりには片っ端から顔を出していたんです。

当時はまだSNSといえばmixiの時代でしたから、mixiのイベントにも出かけましたし、日本に入りたてで普及していなかったFacebookの活用セミナーに行ったりもしました。

そこで名刺を配って挨拶をしているうちに、相談の件数が増えていったのですが、当時、起業家や若い経営者の話がわかる弁護士がいなかったんですよ。

いまは、若い弁護士の方ならITの知識もそれなりにありますし、ご自分でもITサービスを活用して得意な人が増えましたが、当時は本当にいなかったんですね。

ですから、法律の問題についての相談を聞く前に、そもそもITのことなんてなにもわからない。たとえば「リスティング広告ってなんですか?」という質問で1時間消費してしまうような、そんな時代だったんです。

僕はその方面の知識もありましたから、「初めて話が通じる弁護士に会った」「話が早い」とよく言われました。

ーそういう状況を前にして、需要があるなと思いました? それとも面白いと思われました?

面白いなと思いましたね。少し嫌らしい言葉ですが「儲かるな」とはまったく思いませんでした。

現在は、スタートアップの経営者の方でも顧問契約してくださるケースも増えましたが、当時は資金調達の規模も2000〜3000万円できれば上出来という時代でしたし。

いまのように起業家界隈が盛り上がる状況が来るなんて、想像もしていませんでした。

ーどの辺りが面白かったのですか?

現在でも多くの起業家の方々とご一緒させていただいていますが、才能があって勢いもある人たちが作った企業を、スタートからグローバル展開をできる規模までお手伝いしていきたいという思いが、独立した時から強かったんです。

独立当時から、「世界進出を目指すスタートアップを支援する、GVA法律事務所です」といったようなことをよく話していました。その辺りの事務所の理念や思いというのは、現在でも変わっていないんです。

ーGVA法律事務所を立ち上げて1年間で早くも顧問社数が50社を超えたそうですね。どの辺りが支持を集めるポイントだったとお考えですか?

ひとつは「話が早い」という点だと思います。ITビジネスに関する話のすべてを、専門的に理解できるわけではありませんが、少なくとも、経営者の方からご相談を受けて、なにを言っているのか理解できないということはありません。まずはその入口を突破できないと、法律問題の話ができないのでそこは大きかったのではないかと思います。

あとは、手前味噌かもしれませんが、クライアントに親身であることは現在も気をつけています。少し前までは、僕が事務所の中心で、GVA法律事務所といえば山本という状態でしたが、現在は弁護士も増えて事務所の規模も大きくなってきたので、ややもするとビジネスライクな対応になりやすくなってしまいます。

経営者の方々に深くコミットして、お役に立てるような事務所でありたいと、独立当時から現在までこれも変わってはいない点です。

2.自ら企業経営することで上がった「解像度」

ーこれまで数多くのITベンチャーやスタートアップの方々のお手伝いをしてこられましたが、彼らが陥りがちなミスや落とし穴にはどのようなものがありますか?

その企業のサービスラインナップと連動するので一概には言えないのですが、大きく分けると、契約書領域、ファイナンス領域、適法性領域の3つが柱になります。
合わせて、労務問題や海外進出などがあるといった感じでしょうか。

ーたとえば経営者が分かりやすいサインのようなものはありますか?

そうですね、たとえば経営者の方に御社ではWebサービスを展開されていますが、利用規約はお作りになりましたか? と伺ったときに「あるけど、誰が作ったんだっけ?」という状況は、少し危険な徴候ですね。

ー独立当時と2020年現在とでは、経営者の意識になにか変化はありますか?

以前と比べてより早い段階からご相談に来られる方が増えた印象です。

昔は本当に痛い目に遭わないと顧問契約にまで至らないケースが多かったんです。「だからこうなるって言ったじゃないですか」みたいな状況ですよね。

でも最近は、トラブルに遭う前から、会社もそれなりに大きくなってきたし、顧問料の5万円くらいなら捻出できる。安心のために顧問契約をお願いしようという話が増えています。

ーちなみに、経営者が遭いやすい「手痛いミス」にはどのようなものがありますか?

先ほどもお話しましたが、まずは契約書に基づくトラブルですよね。契約書を作っていないから起こるような知財のトラブルとか、業務内容が不明といったベタベタなトラブルとかが多いですかね。

あとは労務関係のトラブルもありますし、商標についても「自分で出せる」と自社でやってみたものの、必要な手続きが漏れていてダメだったというケースもあります。それから、ストックオプションを自分でやってしまって間違っていたということもありました。

意外と、自分たちでやろうとするんですよ。でも「ストックオプションはダメですよ」って、本当に。スタートアップの方々は、本当に優秀な方が多いので、ややもすると全知全能感を持ってしまうことがあるんです。自分でネットで検索してやれる範囲のことなら良いのですが、絶対に弁護士に頼まないと行けない分野でもやろうとして、失敗することがありますので注意が必要ですね。

ー以前よりも早く弁護士に相談しに来るケースが増えたとのことですが、時代とともに変わっているんですね。

変わってきた気がしますよね。早い段階から来る。そのあたりに関する意識が高い人は高いですよね。

ーこれは全体的に底上げされたのでしょうか? それとも二極化しているとお感じですか?

どうなんでしょうか。感覚でしかありませんが、かつてはそういった意識を持って経営している方がゼロだったところが少し増えて、ゼロから10になった、そんなイメージですかね。現在でも顧問弁護士を付けずにやっていらっしゃる企業の方も多いですから。

ーもう少し独立当時のお話を聞かせてください。2012年当時、ベンチャー・スタートアップ支援を専門に謳う法律事務所なんてない時代でした。

当時はありませんでしたね。僕が会った起業家や経営者の方々も、「初めて弁護士に会いました」という人が多かった、そんな時代でした。それくらい弁護士は外に出歩いていなかったんですよ。IT業界内にいなかったんです。

僕が弁護士になった2010年、そこから少しずつIT業界に顔を出すようになって、2012年に独立したわけですが、この時期をいまになって振り返ると、「スタートアップ冬の時代」だったんです。ライブドアショックもありましたしね。

そんな冬の時代から、スマートフォンが出だして、新しいビジネスになりそうな種が少しずつ見つかって、インフラもクラウドに移行していき、安い値段でアプリも作れるようになっていった、そんな時代だったんです。

加えて、サムライインキュベートのようなVCも数百万円でシードマネーを入れるといったことが出だした、明らかに業界が伸びていく入口の時代だったんです。たまたまですけどね。

当時、そんなこと全然分かっていませんでしたよ。新人の若手弁護士でしたし。そんな時代と、僕自身がやりたかったことが、たまたま合致したんです。決して時代を読んでいたわけではないんですよ(笑)。

ーGVA法律事務所も設立から2020年で9年目となりました。順調に成長、拡大していますね。

そうですね。早いですよね。

ーそんななかで、山本先生自ら「GVA TECH株式会社」を設立し、起業家・経営者としても活動されています。ご自身でIT企業を立ち上げようと思ったきっかけはなんですか?

ひとつは法律事務所を取り巻く外部環境の変化として、今後AIが来るという思いが強かったんです。

GVA TECHが開発している「AI-CON(アイコン)」は、AIによる契約書チェックサービスなのですが、今後、ITAIを法律業務に活用するLegalTechは一層進んでいくのは間違いないと思っています。そんな状況で、他社に先んじられるくらいなら自分たちでやりたい、飛び込んでみたいと思って立ち上げたというのがひとつですね。

もうひとつは、これまで起業の最初期段階の方々やフリーランスの方々のお手伝いというのは難しかったんです。たとえばフリーランスの方に契約書作成をご提案する際、10万円ならギリギリ。20万円では「その金額なら自分でやります」「受託費用のほうが安いんで」となってしまう。

潤沢な資金がない彼らをテクノロジーの力を使って、安い金額でお手伝いしたいという思いもありました。AIを使って業務を効率化することで、企業やフリーランスの方々のフェーズに合ったサービスをご提供できるのではないかと思って、サービス開発をはじめました。

ーGVA TECHを立ち上げて起業家になった。起業家である顧問先の人たちを見る目は変わりましたか?

変わったと思いますね。解像度は確実に上がったと思います。

もともと、起業家や経営者の方々を見る際の解像度は高かったと思うんですけど、その奥までは見られなかったんです。

彼らの気持ちは分かるのですが、会社の組織の中まではよく分からなかったので、エンジニアへの対応の苦労とか、経営者がどのように時間を使っているかといったことが、より分かるようになりました。

ー弁護士業と経営者業、どちらが大変ですか?

たとえば法律相談は自分の専門分野の話で、身体に染み付いているので、バリューを分かりやすく発揮できるので楽だなと思います(笑)。生き生きとできる感じですね。得意分野ですから。

一方、会社の経営にはいろいろな人が関わってきますから、本当にキツイんですよ。法律事務所とは全然違う。法律事務所には弁護士と事務局しかいませんからね。

たとえば、これは仮の話ですけれども、エンジニアが僕を本気で説得しようとするとしますよね。自分が好きなツールを入れるために、経営者である僕を説得しようとしていると、仮定します。こんなの絶対に僕、説得されるんですよ。仮にそのツールが良くないものだとしても。

その他にも、僕はマーケティングも分からないわけです。セールスだって分からない。そういうなかで、経営者というのは常に自分の専門外の領域で戦って議論をしないといけないので本当にキツイんです、頭を使うし勉強しないといけないし。

ー経営者の人たちの気持ちもより分かるようになった。経営者が苦労する部分の共感性も上がった。

そうですね。たとえば、スタートアップ支援の法律事務所ならファイナンスの契約書を見ることも多いんです。そういうの業務は、実に「スタートアップ法務っぽい業務」なんですよね。すごく大きなもののように捉えてやっていたんです。

ただ、自分で経営をやってみると、99%はその前の段階が勝負で、残りの1%に契約書がある。そうすると「やっとここまで持ってきたのに、メチャクチャ厳しいレビューをするのはやめてくださいね」と思うんですよね。

そこからさらに思うんです。きっと、これまでうちの法律事務所がレビューした契約書を先方に出していないクライアントっているんだろうなって。特に若手の弁護士ほど厳しいレビューをしますから、なおさらなんじゃないかって。

こんな厳しい契約書を出したら絶対に契約なんて取れないといって、スッと机の奥にしまってしまう(笑)。見なかったことにしたことのあるクライアントがきっといると思うんです。こういうことは、GIVA TECHを作って経営してみて気がついたことですね。

僕自身は比較的、そういった経営者の心情や思いに関する感度は良いほうだと思っているのですが、より解像度が上がったように思います。その解像度も、自分の直感だけで理解しているのと、実際に体感して分かっているのとでは説明の仕方が違ってくるんですよね。

▶▶▶▶後編に続く

■プロフィール
山本 俊氏
Shun Yamamoto
GVA TECH株式会社 代表取締役
GVA法律事務所 代表弁護士

1983年、三重県生まれ。鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にGVA法律事務所を設立。
スタートアップ向けの法律事務所として、創業時のマネーフォワードやアカツキなどを顧問弁護士としてサポート。
50名を超える法律事務所となり、全国法律事務所ランキングで62位となる。
2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。リーガルテックサービス「AI-CON」シリーズ(ドラフト作成・契約書チェック・登記書類作成)の提供を通じ、企業理念である「法務格差を解消する」の実現を目指す。

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