労務

【連載企画 全5回】スタートアップと労働法 ①解雇リスクとは

スタートアップが陥りがちな労働関係のトラブルとそのリスクの大きさ、それからリスクへの対処法を具体的な事例をもとに全5回の連載企画として掲載します。

監修は、法務の技法など著書を多数出版している芦原一郎弁護士です。

<事例>

A君は、スタートアップ企業を始めた時からの仲間でした。総務、人事、財務などを一手に引き受け、周囲に気を配る役回りでした。会社設立時も、裏方に徹する、と言って役員になることを辞退しました。

ところが、中途採用した総務経験者のBさんの方が、経験豊富で、仕事も早く、正確です。A君は、自分は会社のことを最初から知っているから、と安心しきっていますが、Bさんの方が明るくて面倒見もよく、最近では、社員は皆、何かあるとBさんに相談に行くような状況です。

そこで、総務の担当役員をBさんにし、A君にはその下で働いてもらいたいと思い、さりげなく打診したところ、A君は、相当プライドが傷つけられた様子でした。その後、思い詰めた表情になり、Bさんに対する当たりが厳しくなりました。

解雇のリスク

<質問>会社への不利益

A君を解雇すると、会社にどのような不利益がありますか?

<回答>3つのリスク

事案によって異なりますが、会社は、おそらく退職金・損害賠償金・解決金などの金銭的な負担(金銭リスク)を負うことになります。さらに、裁判で敗訴してA君が復職する可能性(復職リスク)も否定できません。

さらに、マスコミやSNSで、会社の評判が下がる危険(風評リスク)もあります。

1.はじめに

3つのリスクを考えます。

1つ目は、A君に対して退職金や解決金などの金銭の支払いが必要となるリスク(金銭リスク)です。

2つ目は、A君の雇用契約の存在が裁判所によって確認され、A君が職場復帰するリスク(復職リスク)です。

3つ目は、風評のリスク(会社の評判が下がる危険)です。このリスクは、上記二つのリスクに伴って顕在化するものですので、この2つのリスクの検討に合わせて検討します。

2.リスクの測り方(判断枠組み)

現実の訴訟などの事案を見れば、①従業員側の落ち度が大きく、②会社側の落ち度が小さく、③解雇までのプロセスが適切な場合でなければ、リスクを免れることはありません。  

天秤を考えると良いでしょう。

すなわち、

  • ①従業員側の落ち度を左、
  • ②会社側の落ち度を右に置き、
  • ③プロセスは真ん中の支柱です。

この見方で、A君の解雇を考えてみましょう。

①A君は、これまで言われた業務を滞りなく処理してきたようですので、落ち度はありません。

他方、②会社はA君に対して、高い水準の仕事を求めたり、足りない部分をフィードバックしたりすることをしていないようですから、会社には管理上の落ち度があると言われるでしょう。

さらに、③A君の能力に物足りなさを感じた後、A君に対し、高い水準での仕事ができるようにチャレンジする機会を与えなければ、プロセスも不十分と評価されます。

3.金銭リスクと復職リスク

金銭リスクと復職リスクは、同じ判断枠組みで考えますが、程度が異なります。

すなわち、金銭リスクを避けることは非常に難しく、余程のことが無ければ避けることができません。

他方、復職リスクは、これも簡単ではありませんが、金銭リスクよりも避けられる可能性が高くなります。

このことから、金銭リスクも含めてリスクが全くない状態でA君を解雇する、と考えることは現実的でありません。金銭リスクは覚悟しつつ、復職リスクができるだけ小さい状況で、解雇する、という決断が、現実的な選択肢となります。

4.風評リスク

金銭リスクを取ると、裁判で判決をもらう場合、一部とはいえ「敗訴」判決になります。つまり、裁判所が会社の責任を認める、という結果が残ります。注目されている事件であれば、マスコミが黙っていないでしょうが、そうでなくても、SNSで拡散される可能性があります。

もちろん、復職が命じられてしまうような場合よりは、金銭上の責任だけにとどまる方が、会社の悪質性は小さく、マスコミやSNSで非難される可能性は小さくなりますが、このようにして見れば、風評リスクも金銭リスクと同様、完全にゼロにすることは難しいものなのです。

5.おわりに

ここでは、まず、解雇に伴うリスクを理解してもらいました。  

次の問題から、このリスクを減らす方法を考えます。

この記事の監修専門家
芦原 一郎
芦原 一郎
Seven Rich法律事務所 ジェネラルカウンセル/弁護士/NY州弁護士