キャリア

【連載企画 全5回】スタートアップと労働法 ③リスクコントロール(和解編)

スタートアップが陥りがちな労働関係のトラブルとそのリスクの大きさ、それからリスクへの対処法を具体的な事例をもとに全5回の連載企画として掲載します。

監修は、法務の技法など著書を多数出版している芦原一郎弁護士です。

前回はリスクコントロールのうち、訴訟になった場合にどうなるか、訴訟になっても勝てる様にするためには何をしておくべきか、を検討しました。今回は第3回としてリスクコントロールのうち、(訴訟された場合を含めて)交渉で解決(和解)する方法について整理していきます。

まずは事例のおさらいです。

<事例>

A君は、スタートアップ企業を始めた時からの仲間でした。総務、人事、財務などを一手に引き受け、周囲に気を配る役回りでした。会社設立時も、裏方に徹する、と言って役員になることを辞退しました。

ところが、中途採用した総務経験者のBさんの方が、経験豊富で、仕事も早く、正確です。A君は、自分は会社のことを最初から知っているから、と安心しきっていますが、Bさんの方が明るくて面倒見もよく、最近では、社員は皆、何かあるとBさんに相談に行くような状況です。

そこで、総務の担当役員をBさんにし、A君にはその下で働いてもらいたいと思い、さりげなく打診したところ、A君は、相当プライドが傷つけられた様子でした。その後、思い詰めた表情になり、Bさんに対する当たりが厳しくなりました。

③和解交渉によるリスクのコントロールについて

<質問>会社への不利益

第2回のとおりリスクコントロールするべく対応を準備している途中で、A君が訴訟を提起しました。退職強要によるパワハラであり、それを直ちに停止し、損害賠償金を払え、というものです。

どのように対応したらいいでしょうか。

<回答>和解交渉

訴訟対応なので、訴訟を依頼する弁護士と相談すべき問題です。

その際、裁判所での和解を目指す方法も、1つの選択肢として相談してください。

1.はじめに

裁判は、判決以外の方法でも終結させることができます。

多くの場合、原告と被告の言い分や証拠を見た裁判所が、わざわざ判決で白黒をはっきりつけるのではなく、話し合いで円満に解決してはどうか、と斡旋してくれます。場合によっては、この程度で両方とも我慢してはどうか、とかなり詳細な和解案を裁判所が提示します。

和解は、問題を曖昧のまま終わらせてしまう、というマイナスのイメージもありますが、当事者が自分たちで新たなルールを作る、という意味では建設的ですし、将来のトラブル再発可能性を下げる効果も期待できますので、否定的にとらえる必要はありません。

しかも、和解は、特に解雇・退職に関わる労働トラブルにおいて有益です。

検討しましょう。

2.会社から見た和解

会社から見ると、和解では、より多くの支出が求められることが多く、金銭的負担が大きくなるように見えます。

けれども、和解の場合には、別のメリットがありますから、これを離婚事件に例えて検討しましょう。

つまり、夫婦仲がうまくいっていなくてもよりを戻せるなら良いですが、例えば別居状態になって長い場合や、DVなど、元に戻しても、誰も幸福にならない場合があります。夫と妻のどちらが悪い、という責任論では結論が出せず、離婚を命じる法的根拠も十分ではないが、かといって元に戻すことは憚れる、という場合です。

この場合、裁判所は、和解を強力に斡旋します。責任論で白黒をつけるのではなく、それぞれが自分の道を歩むべきではないか、という発想です。

 従業員とのトラブルの場合も同様です。

すなわち、従業員がどれだけ協調性がなく、他の従業員とうまくいっていないのか、という点を、数多くの従業員の報告書などで沢山のエピソードとともに証明することで、元の鞘に収めない方が双方の将来の幸福にとって良いのではないか、とアピールするのです。

もちろん、この協調性の問題は、責任論と重なる部分もあります。また、会社こそ、もう少し我慢して受け入れる努力をすべきだ、と批判されてしまう可能性もあります。

しかし、厳密な責任論とは言えないレベルの、職場のすさんだ雰囲気や、従業員の配慮の無い言動などを議論することが可能となります。その過程で、会社の我慢や努力も限界である、とアピールする機会が得られます。

このように見れば、裁判所の斡旋を目指し、「復帰させた場合の幸福度」を主張し、そのための証拠を積極的に集める、という選択肢も、検討の対象に加えましょう。

3.おわりに

和解を目指す方針は、A君のBさんへの攻撃が激しくなったり、A君の協調性が無くなってしまったりした場合に、現実的な選択肢となります。

会社としては、A君の解雇に向けた対応を始めていますので、それなりにプロセスに配慮していると主張できるかもしれません。

さらに、和解の場合には、和解条項の中で紛争の内容や和解の内容を口外しない、という約束を入れられる可能性があり、そうすると、風評のリスクを減らすことも可能になります(判決の場合には、そのような効果は期待できません)。

主に訴訟の場合に限られる選択肢となりますが、これらの事情を考慮して、検討してください。

ABOUT ME
芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰