労務

【連載企画 全5回】スタートアップと労働法 ②リスクコントロール(訴訟編)

スタートアップが陥りがちな労働関係のトラブルとそのリスクの大きさ、それからリスクへの対処法を具体的な事例をもとに全5回の連載企画として掲載します。

監修は、法務の技法など著書を多数出版している芦原一郎弁護士です。

今回は第2回リスクコントロールについて整理していきます。まずは事例のおさらいです。

<事例>

A君は、スタートアップ企業を始めた時からの仲間でした。総務、人事、財務などを一手に引き受け、周囲に気を配る役回りでした。会社設立時も、裏方に徹する、と言って役員になることを辞退しました。

ところが、中途採用した総務経験者のBさんの方が、経験豊富で、仕事も早く、正確です。A君は、自分は会社のことを最初から知っているから、と安心しきっていますが、Bさんの方が明るくて面倒見もよく、最近では、社員は皆、何かあるとBさんに相談に行くような状況です。

そこで、総務の担当役員をBさんにし、A君にはその下で働いてもらいたいと思い、さりげなく打診したところ、A君は、相当プライドが傷つけられた様子でした。その後、思い詰めた表情になり、Bさんに対する当たりが厳しくなりました。

訴訟リスクのコントロールについて

<質問>会社への不利益

A君を解雇する場合、どうすれば会社のリスクを減らすことができますか?

<回答>時間と手間がかかる

今すぐに解雇するのであれば、リスクを減らすことはほぼ不可能です。

リスクとは、以下の3つです。

  1. 金銭リスク
  2. 復職リスク
  3. 風評リスク

時間と手間をかける必要がありますが、その際、第一回「解雇リスク」編で説明した観点が重要になります。つまり、①従業員側の落ち度が大きく、②会社側の落ち度が小さく、③解雇までのプロセスが適切であること、が重要です。

1.従業員の落ち度

 まず、上記①従業員の落ち度を、もう少し掘り下げます。

 従業員の落ち度には、さらに大きく分けると、

  • a)業務内容や能力が、要求水準に達していない、という評価の問題
  • b)指揮命令に従わなかったり、職場の秩序を乱したりして、会社のチームプレーの邪魔になっている、という協調性の問題

に分けて考えることができます。

2.評価の問題

 このうち、a)評価の問題は、期待に達していないという評価の質が重要です。

まず、仕事で何を期待しているのかを明確に伝え、次に、一定の期間後にその達成度を評価し、本人にフィードバックし、改善すべき点を明確に伝えます。基準が客観的・合理的で、評価も合理的で、さらに適切にフィードバックし、改善努力の機会もある、これだけのことが揃わなければなりません。客観的かつ合理的、ということは第三者から見ても明確である必要があります。

そのうえで、最低の評価が続くようであれば、期待する能力がないとして、就業規則や雇用契約に定められた解雇事由になりえます。

すなわち、従業員側の落ち度が認められやすくなります。

3.協調性の問題

 b)協調性の問題は、具体的なエピソードの量が重要です。

すなわち、いつ、どのような指示に対し、どのように従わなかったのか、いつ、どのような迷惑行為を行い、誰がどのような迷惑を受けたのか、というようなエピソードを、できるだけ詳細に、具体的に記録に残します。いわゆる5W1Hをしっかり守ります。そのためには、迷惑をかけている様子を録画・録音したり、メールで警告を与えたりする方法なども、有効です。もちろん、ここでも指揮命令に従わなかったり、職場の秩序を乱したりしたことについて、改善するように警告し、機会を与えることが必要です。

そのうえで、協調性のない事情が積み重なれば、解雇事由になります。

すなわち、従業員側の落ち度が認められやすくなります。

このように、a)評価の問題、b)協調性の問題、で対象は異なるものの、慎重にプロセスを踏み、記録を残す必要があるのです。

4.会社側の落ち度と③プロセス

そして、評価の問題と協調性の問題について、会社が丁寧に対応すれば、②会社側の落ち度や③プロセスも、問題が小さくなることが容易に理解できます。

すなわち、金銭リスク、復職リスク、風評リスクについて、リスクが低くなっていきます。それによって、特に復職リスクが相当小さくなったと判断されれば、金銭解決によって解雇のトラブルを終わらせることができる可能性が高くなります。

5.おわりに

言ってみれば、ここでの対応は、「真っ向勝負」の方法です。

つまり、訴訟になっても、会社の勝てる可能性を高める方法を検討しました。

次回第3回では、「真っ向勝負」以外の選択肢を考えてみます。

この記事の監修専門家
芦原 一郎
芦原 一郎
Seven Rich法律事務所 ジェネラルカウンセル/弁護士/NY州弁護士