判例

労働判例の読み方「同一労働同一賃金」【学校法人大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件】大阪高裁平31.2.15判決(労判1199.5)

0.事案の概要

 この事案は、大学のアルバイト職員だったXが、正職員との給与、諸手当、諸条件の違いが違法であると主張しました。1審では、Xの主張全てを退けましたが、この2審では、Xの主張の一部を認め、学校Yに損害賠償を命じました。

1.判断の枠組み

 1審判決が、有名な同日付(平成30.6.1付)の2つの最高裁判例(ハマキョウレックス事件(労判1179.20)、長澤運輸事件(労判1179.34))以前の判決だったのに対し、2審判決は、この2つの最高裁判例以後の判決だったこともあり、2審判決は2つの最高裁判例と同じ判断枠組みを採用しています。
 詳細は省略しますが、労契法20条は、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると位置付け、処遇の違う点一つ一つを個別に比較するのです。

2.給与

 1審判決と、結論は同じですが、だからといって簡単に終わらせるのではなく、2審判決の理由付けの中で最もページを割いて検証している部分です。
 特に、Xが、アルバイト職員と正職員の業務内容や必要とされる能力に違いがない、という点を強く主張したからなのでしょうか、2審の裁判所は、詳細な事実を認定したうえで、「職務、責任、移動可能性、採用に際し求められる能力に大きな相違があること、賃金の性格も異なること」を認定したうえで、「賃金水準に一定の相違が生ずることも不合理とはいえない」として、2割程度の賃金の差が、不合理ではない、としました。
 ここで特に注目されるのは、給与の違いの前提として、両者の異質性がかなり強調されている点です。
 これによって、給与水準の見かけ上の違いの合理性が導かれただけではありません。結果的に、いくつかの手当てや条件で、違いの不合理性が認められましたが、その不合理性の根拠に影響を与えているのです。
 すなわち、アルバイト職員と正職員の業務内容等が同じであれば、手当等の違いを不合理と評価するのは簡単ですが、両者の業務内容等が違うのであれば、手当等の違いを不合理と評価するのが難しくなります。つまり、裁判所自身がハードルを上げたのに、それでも、違いの不合理性を認定しました。労契法20条の求める「均衡」がそれだけ厳しく求められていると同時に、「均衡」の評価がそれだけ緻密になってきている、と評価すべきポイントでしょう。

3.賞与

 2審の裁判所は、アルバイト職員に対して支給する賞与が、正職員の60%を下回る場合には不合理である、と認定しています。実際は、全く支給していなかったので、正職員の賞与の60%相当の金額の支払を命じたことになります。
 ここでは、60%という割合的な認定がされたことや、数字の根拠も注目されますが、特に注目されるのは、賞与不払いに至る検討過程です。
 すなわち、賞与が支給される根拠や目的を、非常に丁寧に検証しています。しかも、一般論として「労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の意欲向上等といった多様な趣旨を含み得る」としたうえで、その趣旨を、賞与の制度設計や運用から具体的に検証しています。賞与の趣旨は、Yが自由に決めて設計すれば良いのですが、「均衡」を評価するためには、Yの主張する建前ではなく、その実態から検証するのです。
 具体的には、賞与の金額が月額給与に所定の月数を掛けあわせて計算されることから、従業員の年齢・成績や、Yの業績に一切連動していない点を指摘しています。このことから、賞与には当該期間就労していたこと自体に対する対価と、一律の功労の趣旨が認められるものの、Yの主張を明確に否定しています。
 すなわち、①Yは、正職員、嘱託職員、契約職員、アルバイト職員、という契約形態によって、業務内容や人材の代替性の程度、長期雇用への期待の程度が異なるから、長期雇用への期待の乏しいアルバイト職員に賞与を支給しない、と主張しています。
 けれども裁判所は、賞与が従業員の年齢や在籍年数を考慮しておらず、長期就労への誘因効果に疑問があることや、アルバイト職員と同じく長期雇用を前提としない契約職員には正職員の80%の賞与を支給していることを指摘し、長期雇用への期待・誘因の趣旨は付随的なもの、と評価しています。
 さらに、②Yは、正職員はYの業績を左右するような貢献が想定されているため、正職員の貢献→変動する業績→変動する賃金の後払い、という性格であると主張しています。
 これに対しても裁判所は、契約職員にも80%支給していることや、賞与金額の計算方法(変動要因がない)ことを指摘し、Yの主張を完全に否定しています。
 さらに、③Yは、アルバイト職員の給与の時給額で貢献への評価が尽くされている、と主張しています。これは、労契法20条が問題になった他の事案(ハマキョウレックス(第二次差戻後控訴審)事件:大阪高裁平30.12.21判決、労判1198.32)で、「代償措置」として検討された考え方と共通しています。
 これに対しても裁判所は、「具体的に時給額にどのように反映されているというかは全く不明である」と評価し、Yの主張を完全に否定しています。
 そのうえで、付随的とはいえ長期雇用への期待・誘因の趣旨があること、正職員とアルバイト職員では業務内容や要求される能力に違いがあること、契約職員は80%であること、等を指摘して、60%の支給が相当と判断しました。

4.実務上のポイント

 同様に、制度の趣旨を、Yの主張する建前そのままではなく、その実態から詳細に検討した結果、夏季特別休暇や私傷病欠勤補償等の相違についても、不合理であると認定しています。
 特に賞与に関しては、長期雇用制度を根拠に無期契約者だけに与えられ、又は有期契約者の賞与が低く抑えられたたことの合理性が争われることがあります。この点に関し、長期雇用制度が、制度設計上合理的な理由になるのか否か、という抽象的な議論もありました。
 しかし、長期雇用制度が理由になり得るかどうか、という抽象的な次元の問題ではなく、この裁判例が示したように、より具体的にその合理性が検証され、場合によっては割合的な認定も行う、という判断方法が、今後多くなるでしょう。
 すなわち、処遇や手当の相違の合理性は、実態に即して明確に説明できなければならないのです。

※ JILAの研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
 その中から、特に気になる判例について、コメントします。

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芦原 一郎
芦原 一郎
弁護士法人キャスト パートナー弁護士/NY州弁護士/証券アナリスト 東弁労働法委員会副委員長/JILA(日本組織内弁護士協会)理事 JILA芦原ゼミ、JILA労働判例ゼミ、社労士向け「芦原労判ゼミ」主宰
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