会社法

株主総会と取締役会の違いとは?会社運営に必要な決議事項を総まとめ

「何を株主総会で決めて、何を取締役会で決めたら良いの?」
「そもそもどんな違いがあるの?」

会社の意思決定をする際、株主総会決議を行うべきなのか、取締役会決議を行うべきなのか、非常にややこしいですよね。

特に株主総会には3種類の決議方法があり、それぞれの違いをしっかりと理解できていない人も多いと思います。

そこで今回は、株主総会決議事項と取締役会決議事項について、それぞれの特徴と具体的な事項についてまとめました。

この記事を読めば、どちらの決議をすべきなのかが分かるようになりますよ!

1.株主総会決議とは?

株主総会とは、会社の構成員である株主によって構成され、会社としての意思決定を行う機関(とその合議体)のことで、株式会社ならば必ず設置されています。

取締役会設置会社の株主総会においては、会社法が規定する事項のほか、特に会社が定款において定めた事項に限って決議をすることができます(会社法(以下、法令名省略)295条2項)。

株主総会の決議方法には以下に紹介する3種類があり、決議する内容によってどの決議方法を採らなければならないかが異なるため、まずは決議方法の違いについて確認しましょう。

(1)株主総会決議

株主総会決議(3091項)は、株主総会の決議方法のなかで最も多く用いられるもので、普通決議とも呼ばれます。

定款に特別の定めがない限り、議決権を行使可能な株主の議決権の過半数を定足数とし、出席株主の過半数によって決議を行います。

定足数とは決議を行うために必要な最小限の出席者数のことをいいますが、普通決議の場合、定款によって定足数を引き下げたり、完全に排除することも可能です。

(2)株主総会特別決議

株主総会特別決議(3092項)とは、普通決議事項と比べて重要度の高い事項を決議するためになされる決議をいいます。

議決権を行使可能な株主の議決権の過半数を定足数とし、出席株主の議決権の3分の2以上によって決議を行います(特別多数決)。

定款の定めによって要件を変更することもできますが、その場合であっても、定足数は3分の1以上、決議要件は3分の2以上の割合にのみ設定することができます。

このように、特別決議の成立要件は普通決議に比べると非常に厳しく、定款の変更や事業譲渡など、会社の根幹にかかわる事項を決定する場合に要求されます。

(3)株主総会特殊決議

株主総会特殊決議とは、決議事項の重大性ゆえ、株主全体の圧倒的多数による賛成が要求される場合に用いられる決議です。

会社法に規定のある特殊決議は、以下の2種類です。

・定足数に制限はなく、議決権を行使可能な株主の半数以上(議決権の過半数ではなく)と、議決権を行使可能な株主の議決権の3分の2以上にあたる多数によって決議する場合(309条3項)
・定足数に制限はなく、総株主の半数以上の株主(議決権の過半数ではなく)と、総株主の議決権の4分の3以上により決議する場合(309条4項)

いずれも定款に別段の定めをすることにより要件を変更することもできますが、その場合は法定の要件を上回るように変更しなければなりません。

2.株主総会決議が必要な事項とは?

基本的に、取締役の恣意的な決定によって株主や会社債権者等を害するおそれがある事項は株主総会普通決議が必要となり、特に危険性が高い場合には特別決議や特殊決議が要求される、と考えましょう。

取締役会設置会社における株主総会の決議事項は、大きく以下の4つに分けられます。

1.取締役などの機関の選任・解任に関する事項
2.定款変更や事業譲渡・合併など会社の基礎的変更に関する事項
3.余剰金の配当など、株主の重要な権利に関する事項
4.取締役の報酬額の決定など、他機関の決定に委ねると株主の利益を害する可能性が高い事項

以下、それぞれについて詳しく解説します。

(1)機関の選任・解任に関する事項

取締役や監査役の選任および解任については株主総会の決議が必要です(3091項、3291項、3391項)。

取締役の選任および解任、監査役の選任は原則として普通決議で行われますが、監査役の解任についてのみ特別決議が必要である点に注意してください(343条4項、309条2項7号)。

(2)基礎的変更に関する事項

定款の変更(466条)や事業譲渡(4671項)・合併(7831項)など、会社の基礎的部分に変更を加える場合には、株主総会決議が必要です。

これらの基礎的部分は会社の根幹であり、取締役会の恣意的な変更から株主を保護するために株主総会決議事項であるとされています。

(3)株主の重要な権利に関する事項

剰余金の配当(454条1項)など、株主の重要な権利に関する事項は株主総会決議事項です。

また、第三者割当増資を行う場合やベンチャーキャピタルからの出資を受ける場合など、既存株主の株価に変動を及ぼすおそれのある場合には、株主総会特別決議が必要となるため注意しましょう。

(4)他機関の決定に委ねると株主の利益を害する可能性が高い事項

取締役の報酬は、定款に定めのある場合を除き、株主総会の決議で決定する必要があります(3611項)。

これは、取締役の報酬の決定を取締役会に委ねてしまうと、取締役の利益のみを追及して株主や会社債権者を害する恐れがあるためです。

判例によると、定款又は株主総会によって報酬の金額が決定されなければ、原則として、取締役の報酬請求権は発生しないとされています(最判平15221)。

また、役員の退職慰労金についてもここにいう「報酬」に含まれると解されています(最判昭39・12・11)。

3.取締役会決議とは?

取締役会とは、すべての取締役で組織される機関であり(3621項)、会社の業務執行の決定を行い、取締役の職務の執行を監督し、代表取締役の選定・解職を行います(同条2項)。

取締役決議は、議決に加わることのできる取締役の過半数が出席し、出席取締役の過半数によって成立し(369条1項)、定款によって要件を加重することはできても、緩和することはできません。

なお、議決内容について特別の利益を有する取締役は議決に加わることができないため、注意が必要です(同条2項)。

例えば、会社の財産をその会社の取締役に譲渡する場合、会社としては高く売り、取締役としては安く買いたいはずであり、各自の利害が対立するため、その取締役は決議に参加することはできません(充足数からも除外される)。

なお、取締役会を設置していない株式会社の場合、以下に紹介する取締役会決議事項もすべて株主総会決議事項となります。

4.取締役会決議が必要な事項とは?

取締役会決議を行うべき事項は、基本的に以下の7種類です(362条4項)。

・重要な財産の処分及び譲受け
・多額の借財
・支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
・支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
・社債に関する事項
・内部統制システムの構築に関する決定
・定款の定めに基づく取締役等の会社に対する責任の免除

イメージとしては、代表取締役一人で決定すべき事項ではないが、株主総会決議を経るほどでもない議題が取り扱われる、と捉えましょう。

5.決議をする際の注意点3つ

ここまでは、株主総会と取締役会の違いや、それぞれの決議事項について紹介してきました。

いずれの決議においても注意すべき点は多くありますが、今回はスタートアップが見落としがちなポイントを3つに絞って紹介します。

場合によっては決議自体が無効になってしまうおそれもあるため、決議を行う際には以下の点に注意するようにしてください。

(1)手続要件に注意する

株主総会や取締役会については、ここまで述べてきた議決の有効要件のほかに、招集や議決権行使のために様々な要件が課せられています。

例えば、原則として、株主総会を招集する場合には取締役会の決議が必要であり(298条4項)、取締役は、株主総会の2週間前までに株主に対して書面で通知をしなければなりません(299条1項2項)。

取締役会と株主総会の招集手続の比較について、以下にまとめました。

取締役会 株主総会
招集権者 原則:各取締役(366条1項) 原則:取締役会決議を行い、取締役が執行(296条3項、298条4項)
招集通知 時期 原則として会日の1週間前までに通知(368条1項) 原則として会日の2週間前までに通知(299条1項)
方法 制限なし 取締役会設置会社では、書面・電磁的方法による(299条1項)
相手方 取締役・監査役(368条1項) 株主(299条1項)
通知事項 規定なし 書面・電磁的方法による通知の場合、株主総会の日時・場所・目的である事項等(299条4項、298条1項)

これらの手続きを欠く場合には、決議が無効や取消の対象となるため、決議自体の有効要件のみならず、手続き面全般の要件に気を配る必要があります。

要件を充たさなくとも例外的に効力が認めらるケースなどは判例の蓄積が多いため、決議の有効性に不安がある場合には弁護士等への相談をお勧めします。

(2)定款を確認する

先ほどご紹介したように、株主総会決議や取締役会決議の要件については、法令で定められている要件が定款で変更されている場合があります。

そのため、法令の要件を充たしていても、自社の定款の規定を充足しないことにより、決議そのものが無効となってしまうおそれがあります。

特に設立手続を司法書士や弁護士に依頼した場合、自社の定款であってもあまり確認したことがない場合もあると思いますので、決議の前にはしっかりと確認しておきましょう。

(3)議事録を作成する

株主総会決議や取締役会決議を行う場合には、必ず議事録を作成するようにしましょう。

株主総会・取締役会いずれの場合も、総会や役会の日から10年間は議事録を本店に備え置かなければなりません(318条2項、371条1項)。

議事録の作成は法律上要求される義務であると同時に、後日の紛争を防ぐためにも有用なため、必ず作成したうえ保管するようにしてください。

6.まとめ【一覧表】

最後に、株主総会決議を要する事項の一覧を表にしてまとめました。

取締役設置の場合と非設置の場合、また、定款に特別の定めを置いている場合には以下の表があてはまらないこともあるため、実際に決議を行う際には前もって会社形態と定款を確認するようにしてください。

取締役会非設置会社の場合
普通決議
  • 会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項(295条1項)
  • 譲渡制限株式・譲渡制限新株予約権の譲渡の承認(139条1項、265条1項)
  • 譲渡制限株式の買取人指定(140条5項)
  • 募集新株予約権の割当(243条2項)
  • 取得条項付株式・取得条項付新株予約権の取得日の決定(168条1項、273条1項)
  • 取得条項付新株予約権の取得決定(274条2項)
  • 株式の分割に関する事項(183条2項各号)
  • 株式・新株予約権の無償割当(186条3項、278条3項)
  • 代表取締役等の選定(349条3項)
  • 取締役が競業取引・利益相反取引を行う承認(356条1項)
取締役会設置会社の場合
普通決議
  • 自己株式の取得(156条1項)
  • 総会検査役・業務財産検査役の選任(316条1項、同2項)
  • 総会の延期又は続行の決議(317条)
  • 役員等の選任又は解任(329条1項、341条※定足数に注意)
  • 会社・取締役間で訴訟となる場合の会社代表者の選定(353条)
  • 定時株主総会における会計監査人の出席請求決議(398条2項)
  • 計算書類・臨時計算書類の承認(438条2項、441条4項)
  • 欠損填補目的で定時株主総会において資本金減額を減少(447条1項・309条2項9号)
  • 準備金の額の減少(448条1項)
  • 資本金の額の増加(450条2項)
  • 準備金の額の増加(452条)
  • 損失の処理・剰余金の処分(452条)
  • 剰余金の配当に関する事項(454条1項)
  • 株主総会議長の選任(※会社法に規定なし。慣習による。)
特別決議
  • 譲渡制限株式の買取(140条2項)
  • 自己株式の取得(156条1項、160条1項)
  • 全部取得条項付種類株式の取得(171条1項)
  • 譲渡制限株主の相続人に対する売渡請求(175条1項)
  • 株式の併合(180条2項)
  • 募集株式・募集新株予約権の発行における募集事項の決定(199条1項、238条2項)
  • 募集事項の決定の委任(200条1項、239条1項)
  • 株主に株式・新株予約権の割当を受ける権利を与える場合の決定事項の決定(202条3項4号、241条3項4号)
  • (累積投票)取締役・監査役の解任(339条1項、342条)
  • 役員の責任の一部免除(425条1項)
  • 資本金の額の減少(447条1項)
  • 現物配当(454条4項)
  • 定款の変更(466条、309条2項11号)
  • 事業譲渡(467条)
  • 解散(471条3項)
  • 解散した株式会社の継続(473条)
  • 吸収合併契約・吸収分割契約・株式交換契約の承認(783条1項、795条1項)
  • 新設合併契約・新設分割計画・株式移転計画の承認(804条1項)
特殊決議
  • 公開会社から非公開会社への変更
  • 人的属性に基づき株主の権利を取扱う定款の変更(109条2項)※いわゆる属人的定め
法務や契約書についての専門家相談窓口はこちら

スタートアップドライブでは、法務や契約書の相談に最適な専門家や法律事務所を無料で紹介します。
お電話で03-6206-1106(受付時間 9:00〜18:00(日・祝を除く))、
または24時間365日相談可能な以下のフォームよりお問い合わせください。






 


この記事の監修者

赤堀弁護士
赤堀 太紀 FAST法律事務所 代表弁護士

企業法務をはじめ、債務整理関連の案件、離婚・男女トラブルの案件、芸能関係の案件などを多数手がける。

この記事の筆者
浜北 和真株式会社PALS Marketing コンテンツディレクター

2017年から法律メディアに携わりはじめる。離婚や債務整理など、消費者向けのコンテンツ制作が得意。
監修したコラムはゆうに3000を超える。
ブロックを追加