M&A

スタートアップが知っておくべきM&A【基礎から徹底解説!】

M&Aってそもそも何?」
IPOとの違いは?」

M&Aに関するニュースを観ていて、このようにお悩み方はいらっしゃいませんか?

実はこの数年大企業やCVCといった資本力のある会社が、スタートアップやベンチャー企業を買収するケースが増加しています。

2018年には70件以上のM&Aがあったと言われており、この勢いは今後さらに加速すると目されています。

そこで今回は、スタートアップやベンチャーが知っておくべき企業買収(M&A)の知識について、基礎から徹底的に解説しています。

この記事を読めば、M&Aに関する疑問はなくなりますよ!

1.そもそもM&Aとは?

M&Aとは、「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略語で、直訳すると企業間における「合併と買収」を意味します。

企業間の買収には株式取得や事業譲渡、合併には吸収合併や新設合併など様々な種類があり、これらを総称してM&Aと呼びます。

従来、スタートアップ企業が行うイグジット(創業者等が株式を売却し、利益を得ること)はIPOで行われることが一般的でした。

しかし、準備からイグジットまで最低3年近くの時間を要してしまうことや、そもそも上場に対するインセンティブの無い業種が増加していることを受け、近年ではM&Aが主流となりつつあります。

すでにアメリカではイグジットの80%近くがM&Aによって行われており、この潮流は日本においても生じるであろうと考えられています。

2.M&Aを行う理由

以下からはM&Aを行う主な目的について紹介します。

M&Aを行う目的は、企業規模や買収規模によって様々であり、目的に応じて多用なスキームが存在します。

そのため、一概にM&Aの目的について述べることは困難ですが、以下からは主な目的について買い手側・売り手側それぞれの観点から紹介します。

(1)買い手側

買い手企業側はM&Aを通じ、統合によるシナジー効果を得ることができます。

シナジー効果とは、複数の企業が融合することによって単純な合計以上の生みだされる相乗効果が生み出されることをいいます。

例えば経営ノウハウや経営資源を共用することによってコストの削減や、新規事業への開拓が容易になるなどのメリットがあります。

また、新規事業進出への足掛かりを短期間・低コストでつくり出すことができます。

現代ではスピード感のある経営戦略を実現することが求められますが、新たに事業を立案し、マーケティングを行なっていたのでは競走に打ち勝つことができません。

しかし既存事業を行なっている事業や企業をM&Aによって買収すれば、リスクとコストを抑えた進出が可能です。

(2)売り手側

M&Aが売り手企業側にもたらすメリットとして、なによりも株式の現金化が挙げられます。

特にスタートアップ企業においては創業者が過半数の株式を保有している場合が多いため、M&Aによって得られた売却益を元手に新規事業を立ち上げるシリアル・アントレプレナー(連続起業家)を生み出す一因となりました。

また、M&Aのうち事業譲渡であれば、収益性や業績の悪い部署だけを切り離して売却することができるため、事業の選択と集中を行うことができます。

売り手にとっては収益性の悪い部署であっても、ノウハウや販路を有している買い手にとっては事業拡大のための足掛かりとなるため、M&Aによって双方にメリットをもたらすことができます。。

3.M&AとIPOの違い

従来日本では、スタートアップのイグジットといえばIPOで行われることが一般的でした。

IPO(新規株式公開・Initial Public Offering)とは、未上場企業が新規に株式を証券取引所に上場し、広く一般に株式を取得させることをいいます。

M&Aが企業または事業の経営権そのものを売買し、実施後は退任または子会社等の経営者へと移行するのに対し、IPOの場合は実施後もそのまま経営者として残留する点に違いがあります。

また、先述したように、IPOの場合には現金化に少なくとも3年以上の時間が必要なため、時代の潮流に合わせたビジネスであればその間に企業価値が低下してしまうおそれさえあります。

M&Aの場合、スキームにもよりますが、合意の成立後すぐに株式を現金化することができます。

IPOでは広く市場へのニーズに合わせた成長を目指す必要がありますが、M&Aであれば買い手との合意があれば良いため、エッジの効いた企業であっても高く評価される場合があることもメリットであるといえます。

4.M&Aの流れ

ここまでは、M&AのメリットやIPOとの違いについて紹介してきました。

M&Aにはいくつかのスキームが存在しますが、おおよそ以下のような手順で行われることが一般的です。

  1. 準備段階
  2. 交渉段階
  3. 契約段階
  4. 完了段階

以下からは、それぞれの具体的な内容について簡単に紹介していきます。

どの段階においても専門的な知識が必要となるため、余裕をもったスケジューリングで実施するとともに、各種専門家のアドバイスを受けながら実施するようにしましょう。

(1)準備段階

準備段階においては、売り手と買い手の双方が相手方の選定(マッチング)を行います。

一般にこの準備段階においては、以下のような作業が実施されます。

#1.仲介業者との相談

はじめに、M&Aの相手方を探します。

希望する条件での相手方を自力で探すことは困難なため、マッチングを専門の仲介業者に依頼することが一般的です。

そこで仲介業者に対し、売り手は希望売却価格や期限を伝え、買い手は希望購入価格や業種・業界等を挙げ、対応する企業があるかの検索を依頼します。

これ以降、企業の経営状況や知的財産の概要などの機密情報が交換されるようになるため、仲介業者との間で秘密保持契約が交わされます。

#2.事前開示資料とノンネームシートの作成・提供

次に、売り手側は仲介業者に対し、自社の経営状況等の基本情報を伝えます。

仲介業者はこの情報をもとにノンネームシートを作成し、マッチングの段階へと入ります。

ノンネームシートとは、買い手を希望する側へと開示される、売り手側の企業の特定が不可能な程度に抽象化された資料のことをいいます。

たとえば本店所在地や従業員数、事業内容などが一般化・抽象化されたうえ、買い手希望側はこれらの情報をもとに相手方を選定します。

#3.相手方の決定

ノンネームシートをもとに、最終的なM&Aの実施先が決定されます。

仲介業者からは希望に沿う条件の企業が絞り込まれたリスト(ロングリスト)が買い手側に提示され、最終的な提案先が決定されます。

(2)交渉段階

提案先企業が決まったのち、両者の交渉段階へと移行します。

M&Aにおける交渉段階では、以下のようなプロセスが行われます。

#1.ネームクリア

ネームクリアとは、ノンネームシート上の一般的・抽象的な情報に加えて、売り手企業の詳細な情報が開示されることをいいます。

ここで開示された情報をもとに、買い手企業はM&Aの実施の可否に関する最終的な意思決定を行います。

この段階では売り手・買い手ともに秘密保持契約を締結しているため、ネームクリアによって詳細な情報に基づいた交渉段階へと進んでいきます。

#2.両者の面談・交渉

ここまでは仲介会社を通じ、書面での検討が行われてきました。

ここからは、売り手と買い手が面と向かっての交渉が開始されます。

M&Aが成功するためには、買収価格や事業内容といった客観的要素だけではなく、経営者間の価値観や経営理念といった主観的要素も考慮する必要があるため、面談は欠かせません。

それ以外にも、買収価格のすり合わせなど、交渉項目は非常に多岐にわたります。

交渉が一段落すると、買い手側は具体的な買収価格や今後の流れなどを確認した意向表明書を作成し、売り手側に提示されます。

(3)契約段階

ここまでの段階を踏まえ、最終的な契約段階へと入ります。

契約段階はM&Aの一連の手続きのなかでも特に重要なデューデリジェンスが行われます。

契約段階における主な流れは以下の通りです。

#1.基本合意書の作成

交渉段階で作成された意向表明書をもとに、両者の希望条件をまとめた基本合意書を作成します。

ここでは、これまでの交渉段階で決定された買収価格や採用するM&Aスキームなどの確認が行われるとともに、独占交渉契約が締結されます。

独占交渉契約が締結されることにより、今後両者は他の企業とはM&Aに関する一切の交渉をしないことを約し、不要な競争を回避することができます。

#2.デューデリジェンスの実施

最終的な合意に至る前に、買い手側がデューデリジェンス(Due Diligence)を実施します。

デューデリジェンスとは、売り手側がどのような経営状況にあり、各種リスクを抱えているのかを精査したうえ、投資に見合った価値がある企業なのかを判断するために行う調査のことをいいます。

ここでは、法務・財務・会計・人事・ビジネスなど、あらゆる観点から専門的な調査が行われます。

デューデリジェンスは最終的な買収価格や統合後の経営方針など、M&Aを行う上でも最も重要なプロセスだといえます。

#3.最終条件の交渉・契約の締結

デューデリジェンスで得られた情報をもとに、最終的な交渉へと移ります。

買収価格のほかにも、M&Aの実施日程や実施後の具体的な統合案についても最終的な合意が交わされ、あとは実施を待つのみとなります。

(4)完了段階

最終契約が締結された段階で、M&Aの準備手続きは一通り終了したことになります。

これ以降のM&A実施に関する業務のことを、クロージングと呼びます。

クロージングでは、最終合意に基づいて買収代金の支払いと会社の引き渡しが行われるとともに、従業員などの利害関係者に対してM&Aの公表が行われます。

また、買い手側はM&A実施以降、人的・業務的な統合と刷新(PMI・Post Merger Integration)を行い、シナジー効果の増長を図ります。

買い手側にとっては、M&Aを成功させるためにも丹念に行いたいポイントです。

5.M&Aを行う上での注意点

ここまでは、M&Aの目的や実際の流れについて紹介してきました。

以下からは、M&Aを行う上で注意すべきポイントを2つ紹介します。

M&Aの実施を考えている方は、これらのポイントに注意した上で行うようにしましょう。

(1)余裕をもったスケジューリングで行う

M&Aを実施する際には、余裕をもったスケジューリングで行いましょう。

近年市場が活発化しており、IPOと比べるとスピード感のあるM&Aですが、相手方とのマッチングにはそれなりに時間がかかります。

企業規模にもよりますが、M&A手続きには目安として3ヵ月~1年程度の期間を要すると考えておきましょう。

M&Aには複雑な手続きが伴いますが、それぞれを焦って進めてしまうと、売り手は買い叩かれ、買い手はM&Aそのものに失敗してしまうおそれさえあります。

そのため、M&Aを実施する際には、M&Aに精通した専門家の意見を参考にしながら、計画的に行うようにしましょう。

(2)専門家に依頼する

M&Aではスタート地点であるマッチング段階から、成功のキモとなるデューデリジェンスなど、法務・会計など高度に専門的な経験と知識が求められます。

しかし、法務の専門家・弁護士であっても、すべての弁護士がM&A業務に精通しているわけではありません。

そのため、M&Aの実施を考えている場合には、なるべく早い段階でM&Aに特化した各種専門家へ依頼することをお勧めします。

また、依頼する際には、M&Aの実施前後やスキームに関するものだけではなく、実施後のケアまで一貫して行うことのできる専門家を探すようにしましょう。

6.国内におけるM&A事例2つ

最後に、国内におけるM&Aの事例を2つ紹介します。

近年ではメディアを賑わせるM&A事例も頻発していますが、今回は特に注目すべき事例を厳選しました。

さきほど紹介したメリットや目的などを踏まえつつ、実際の事例におけるM&Aの動きを確認してみましょう。

(1)ソフトバンク・ZOZO

2019年12月、ソフトバンク参加のヤフー株式会社がアパレルECサイト大手の「ゾゾタウン」を運営する株式会社ZOZOに対してTOB(株式公開買付)を実施すると発表しました。

総額4,000億円ともいわれる大型のM&Aで、以前から代表者の前澤氏のメディア露出も多かったこともあり、非常に大きな話題になったことは記憶に新しいと思います。

莫大な株価の売却益を元手にさらに新しいビジネスへと挑戦する前澤氏は、まさに日本版シリアル・アントレプレナーともいえるでしょう。

同社は創業から約20年で時価総額7,000億円規模の企業へと成長しましたが、実はZOZO自身もM&Aを繰り返すことによって成長を遂げてきたことはあまり知られていません。

たとえば、ZOZO(当時は株式会社スタートトゥデイ)は、2015年に宮崎県のECサイト製作会社の株式会社アラタナを子会社化しています。

ZOZOとしてはアラタナの技術力やノウハウを吸収し、アラタナとしてもZOZOのもつリソースを通じて取引を拡大できるという、双方にシナジー効果をもたらすM&Aであったといえます。

このように、事業規模の拡大や新規事業進出への足掛かりとしてM&Aが用いられることもあります。

(2)ジラフ・Peing

2017年12月、買取価格の比較を行える「ヒカカク」を運営する株式会社ジラフは、「質問箱」などを運営する匿名質問サービス「Peing」の事業譲渡を受けました。

ベンチャーに関わるM&Aは買い手が一部上場企業などの大企業であることが一般的ですが、このケースでは買い手であるジラフ自身も上場を目指すスタートアップ企業であったことから話題となりました。

さらに、売り手側である「Peing」が、企業による運営ではなく個人開発・運営によるWebサービスであったことも注目すべき点です。

このように、M&Aは海外で大企業同士が行うもの、という従来のイメージはもはや完全に過去のものとなり、現在ではあらゆる企業規模・事業において活発に行われるようになっています。

7.まとめ

今回は、スタートアップ期の経営者として知っておきたいM&Aに関する基礎知識を紹介しました。

これらの知識は、専門家に依頼する場合であってもスキームや進捗を確認する上でも欠かすことのできないものです。

この記事をしっかり読んで、まずは基礎をしっかりと固めておきましょう。

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この記事の監修者

赤堀弁護士
赤堀 太紀 FAST法律事務所 代表弁護士

企業法務をはじめ、債務整理関連の案件、離婚・男女トラブルの案件、芸能関係の案件などを多数手がける。

この記事の筆者
浜北 和真株式会社PALS Marketing コンテンツディレクター

2017年から法律メディアに携わりはじめる。離婚や債務整理など、消費者向けのコンテンツ制作が得意。
監修したコラムはゆうに3000を超える。
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